鳥は他個体が襲われるのを見てその場所を危険と学習するか(2009.08.20)
動物は嫌なことを経験した場所を学習するという証拠が数多くの実証研究により得られている。場所の学習を引き起こす嫌な経験の一つに捕食者にさらされることがある。自ら死ぬような危険に会えばその場所を学習するだろうが、もう少し危険の少ない状況として、同種他個体が捕食者に出会ったのを観察する状況でも危険な場所として学習するかもしれない。こうした他個体の観察による場所の学習については驚くほど研究例が少ない。 インドハッカ(Indian mynah Sturnus tristis)はオーストラリアの東海岸で人の生活圏に住み、大きな集団ねぐらを形成する。この鳥は群れで暮らし、さまざまな対捕食者音声を出すことと、侵略的外来種として駆除活動が行われていることから、他個体の観察によって危険な場所を学習するかどうかを研究するにはうってつけの対象である。本研究の目的は、インドハッカが他個体が捕食者に捕まるのを見た場所を避けるかどうかをテストすることであった。
インドハッカを維持室と給餌室を行き来するように訓練し、実験群(捕食観察群)には人がインドハッカをネットで捕獲するシーンを見せ、対照観察群にはインドハッカはいない状況で人が同様の行動をするところを見せた。トラップで捕獲した36羽を4週間以上屋外ケージに慣らしてから実験に使った。24羽を実験観察者、12羽を捕獲のターゲットに割り振り、観察者の半分は捕獲観察群、残り半分は対照観察群とした。実験では各個体を室内ケージに移して2日間置いてから実験した。実験装置は、テーブル上にパイプでつながった2つのケージ(保持ケージと給餌ケージ)を置き、中央のスクリーンを上げたときだけ鳥が給餌ケージに行けるようにしたものである。3日目と4日目にスクリーンが上がればすぐに保持ケージからパイプを通って給餌ケージへ移動するよう訓練した。5日目と7日目には事前と事後の行動記録を行い、6日目に本実験を行った。本実験ではパイプに詰め物をして通れなくし、給餌ケージで別の個体を人が捕獲するのを観察させた。対照群には、空のケージで人が同じ動作をしているところを見せた。終了後、観察個体はただちに元のケージに戻され、60-90分後にもう一度同じ手順を繰り返した。行動を記録したビデオテープは、記録されている個体の設定を知らない実験者によって分析された。
捕獲観察個体は対照観察個体に比べて給餌ケージに移るまでに時間がかかることも、給餌ケージでの滞在時間が少ないも、採食率(餌台のつつき率)が低いということもなかった。しかし、給餌ケージに移ってから90秒間に移動に費やす時間は、実験観察個体で優位に多かった。インドハッカは、警戒しているときに移動が増えることが別の研究で分かっているので、この実験結果は、インドハッカが他個体の捕獲を観察することによって給餌ケージを危険な場所として学習したことを示している。
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◆いいオスを選ぶにはパワーが必要(2006.11.22)
オスが子の世話などの直接的利益を提供しない動物では、メスにとってオスを選ぶ利益は優れた遺伝形質を引き継ぐという間接的なものしかない。このよな状況ではメスはオス選択に大きなコストはかけないとされてきた。また、best-of-n(nオスを比べて最高のオスを選ぶ)という選び方は探索コストが小さい場合にのみ進化するとされてきた。プロングホーン(Antilocapra americana)[北米の乾燥地にすむ1科1属1種の偶蹄目]のメスは9月中旬に集中的に発情し、その前2週間にハーレムを渡り歩いてオスを選ぶ。オスの繁殖成功度には偏りがあるが、体サイズや角サイズ、消化管寄生虫の量とは相関がない。興味深いことに、一部のメスはこうしたオス選択をしないで周辺オスと交尾する。生息地の状況が悪いとオス選択をしないメスが増えることから、オス選択のエネルギーコストを調べることにした。
調査地はモンタナ州北部のNational Bison Range(7,504ha)という保護区。約100頭ほどのプロングホーンがおり、95%は耳タグで、残りも体の特徴で個体識別ができる。2001-2004年に35頭のメスを発情6週間前に麻酔銃で捕獲してGPS首輪を取り付けた。GPS首輪は9月1日から10分ごとに位置を記録するようセットされ、10月初めに自動落下した首輪を回収した。この首輪は通常の発信機としても機能し、1日2回装着メスを探索してハーレムや行動を記録した。「控え目メス(quiet ♀)」はオスを替えないか1回だけ替えてから周辺オスとつがいになったメス、「選択メス(sampling ♀)は2回以上オスを替えたメス、とした。
35メスのうち31メスで完全なデータが得られ、うち7頭は控え目メス、24頭は選択メスだった。7頭の控え目メスのうち5頭は干ばつ年だった2003年に生じた(翌春までに38%のメスと79%のオスが死亡)。選択メスは控え目メスよりも長距離を移動し、より長時間立っていた。この違いは発情前2週間で一貫していた。この期間での消費エネルギーの違いは約8,200kJ(約半日分のエネルギー)と推定された。越冬や出産に脂肪蓄積が効くことから、これはプロングホーンのメスにとって大きなコストであると考えられる。間接的な利益のためであってもメスはオスの選択に大きなコストをかけるのかどうか、さらにさまざまな動物で検証することが必要であろう。
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◆ハチに寄り添って繁殖成績を上げる鳥(2006.11.15)
アフリカの半乾燥地に棲むカエデチョウの仲間、セイキチョウ(Uraeginthus bengalus)はマメ科の木に営巣するが、その大部分はハチ(アシナガバチの1種)の巣の近くにある。ハチの活動期は乾期が終わる4月から乾期直前の10月までで、セイキチョウの繁殖期は6月~10月である。両者の関係が共生・片利共生・寄生・偶然のいずれかを確かめるために、2002年と2003年に北部ガーナの保護区で399本のタグ付き営巣可能木を定期的に回ってセイキチョウとハチの営巣状況を調べた。
399本のうち、セイキチョウとハチがともに営巣していた木は59本、セイキチョウだけが22本、ハチだけが21本、どちらも営巣していなかった木は297本で、両者が同じ木に営巣する強い傾向があった。同じ木に営巣した場合の巣間の距離は平均42cmで、セイキチョウはハチが営巣を始めてから平均33日後に営巣を始めていた。セイキチョウの繁殖成功率(巣立ちまで至った巣の割合)は、2年ともハチと同じ木に営巣した場合がそうでない場合の2倍以上であった。捕食者としてはサル・鳥・ヘビ・トカゲがおり、捕食の証拠が残されていたのはハチと同じ木で122巣中4巣、そうでない木で90巣中11巣であった。一方、ハチの巣の最大個体数や個体数増加率はセイキチョウといっしょかどうかでは変わらなかった。また、両者の間で特に目立った行動は見られなかった。
セイキチョウはハチの近くにいることで繁殖成績が2倍になるという利益を受けていたが、ハチはセイキチョウから悪影響も良い影響も受けていなかったことから、両者の関係は片利共生であると考えられる。本来は実験によって証明すべきだが、使われていない営巣可能木が多数あることから、営巣木が限られているためにセイキチョウとハチがいっしょにいるだけとは考えにくい。ハチは2種の鳥を攻撃したもののトカゲを攻撃しなかったが、サルや鳥を追い払うのに役に立っているかもしれないし、トカゲについても攻撃しないと言うには観察が少ないだけかもしれない。
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◆マツカケスは見知らぬ個体を顔見知りとの関係で知る(2005.03.23)
安定した群れで生活する動物では、群れが大きいほど個体間の組み合わせ数が増えるので、他個体との関係を間接的に知ることができれば有益だろう。しかし、こうした推移的推論(transitive inference)の直接的な証拠は、人以外の動物では得られていない。
北米南西部の山地にすむマツカケス(pinyon jay, Gymnorhinus cyanocephala)は、最大で500羽にもなる群れで生活し、直線的な順位関係を維持する。オス16羽を捕獲し、3群に分けて飼育した。餌を真ん中に置いた「対戦ケージ」での行動から、マツカケスは各飼育群内で直線的な順位を形成した。その後、「実演者」が別の2羽と対戦するのをさらに別の個体に観察させた。実演者も対戦相手も観察者が知らないケース(対照処理)と、実演者は知らないが、もっとも弱い1羽が自分より優位なことを知っているケース(実験処理)を観察させた上で、実演者と観察者を対戦させるテストを計12組で実施した。
観察者は、実験処理の実演者に対して対戦初期に多くの劣位行動を示しただけでなく、自分が知っている対戦相手と実演者の順位の差が大きいほどより多くの劣位行動を示した。対照処理の実演者にはこのような傾向はなかったことから、この結果は推移的推論によるものであり、バッジサイズなどでは説明できない。
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◆托卵されないイベリア半島のオナガはなぜ卵識別するのか?(2005.01.21)
ミトコンドリアDNAの分析から、イベリア半島のオナガは約120万年前に東アジアのオナガと分かれた(Fok et al. 2002)。日本のオナガでは、カッコウ(common cuckoo, Cuculus canorus)による高頻度の托卵とそれに続く卵識別能力の発達がここ20年ほどで生じた。イベリア半島にはオニカッコウ(great spotted cuckoo, Clamator glandarius、以下カッコウ)がオナガと同所的にいる。このカッコウは、現在もっぱらカササギ(magpie, Pica pica)に托卵しているが、近い過去にはオナガにも托卵していた。イベリア半島のオナガは、オニカッコウの卵に対して高い識別力を示す。ここでは、こうした識別力が種内托卵を通して進化してきた可能性を探る。
オナガの19巣にカッコウ卵(ウズラ卵にペイント)、14巣にオナガ卵(放棄巣から)、カササギの34巣にカッコウ卵を入れ、6日後に拒否(卵の放出か巣の放棄)か受け入れを判定した。オナガはカササギよりもカッコウの卵をより多く拒否した(74%vs21%)。カッコウ卵の拒否は、両種ともすべて卵の放出で、さらに、カッコウ卵を放出したオナガとカササギの各29%は、自身の卵を1個以上放出してしまった点は類似していた。オナガは、有意差はなかったものの、自種の卵よりカッコウの卵をより多く拒否した(43%vs74%)。
では、オナガの卵識別能力は、過去にカッコウによる托卵に対抗して進化した形質が残されてきたのか、それとも種内托卵に対抗するという適応的な価値があるために維持されているのか。イベリア半島のオナガではこれまでに種内托卵は見つかっていないことから、種内托卵への対抗手段とする根拠は弱い。一方で、まったく似ていないカッコウの卵を排除するためにオナガがここまでの識別力を獲得してきたというシナリオも考えにくい。
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