狩猟データはアメリカクロクマの個体群構造を反映している(2009.01.30;2009.05.02)

野生動物の保護管理者は、個体群構造をモニタリングするのに必要な年齢や性別といったデータを狩猟者からの報告データに依存することがしばしばある。米国ワシントン州では1990年代には毎年844-1,802頭のアメリカクロクマが捕殺されてきた[日本国内のツキノワグマ捕獲数よりやや少ない程度]。1996年には猟犬と誘引餌の使用が禁止されるという狩猟規則の変更があった。一方、林業地域ではクマによる被害が証明されれば非狩猟期のクマの捕殺が認められている。我々は、狩猟データが実際の個体群構造を代表しているかどうかと、狩猟規則の変更や問題を起こしたクマの駆除、生息地条件などの地域間の違いが個体群構造に反映するかどうかを調べた。

ワシントン州内に互いに約150km離れた3ヵ所の調査地を選んだ。道路や歩道沿いではくくり罠を用い、アクセスの悪いところではヘリコプターからの吹き矢でクマを捕獲した。捕獲したクマについて、体重や性別などを記録した上で、死亡センサー付の発信機を装着した。冬眠中は毎月1回、それ以外の時期には週に1-2回空中より発信機個体を探索し、死亡が疑われた場合には1週間以内に死体を確認した。

3地域で雄89頭、雌47頭の合計136頭を捕獲した。うち77頭で小臼歯より年齢を判定した結果、調査地ごとの中央値は雄で3歳か4歳、雌で3歳から7歳であった。年生残率は雄より雌で高かった(0.73 vs. 0.93)。週あたりの生残率については地域でも狩猟規則の変更前後でも違いはなかったが、狩猟期には非狩猟期より低下した。捕獲中に死亡した3頭を除いて58個体の死亡を確認し、うち34個体と5頭がそれぞれ狩猟と狩猟によるけがで死亡していた(計67%)。他には1頭が密漁、15頭が有害捕獲、2頭が交通事故でそれぞれ死亡し、残る1頭の死因は不明だった。狩猟データからも生残率は雄よりも雌で有意に高く(0.76 vs. 0.83)、平均年齢は雄で6.4歳、雌で7.8歳であった。

生残率も年齢も発信機個体のデータと狩猟データでほぼ一致した。狩猟者はすべてを報告するわけでないので注意が必要だが、狩猟データは個体群構造を反映すると考えて良いだろう。猟犬と誘引餌の禁止の影響は見られなかったが、これは禁止後に狩猟期間の延長など他の促進策が取られたからと考えられる。実際にクマの捕獲数は、禁止前の3年間では年1,200頭、禁止後の3年間では年1,250頭と変わらなかった。

【いつもながら北米の野生動物保護管理の研究には調査規模やサンプルサイズの大きさで圧倒される。100頭以上のクマに電波発信機を付けて毎週飛行機で探索するといった調査は日本では考えにくい。確かにそうした調査はコストが大きいので、個体群管理には狩猟データを活用する方が合理的かもしれない。それにしても、クマの死亡の98%が人によるものであり、うち56%が狩猟によるというのには驚いた。それなら狩猟データから個体群の動向を予測できるというのも納得できる。日本でもまともに調べれば死因の多くは人に関係しているのかもしれない。】

元の文献

Koehler, GM;Pierce, J (2005) Survival, cause-specific mortality, sex, and ages of American black bears in Washington state, USA. Ursus 16:157-166 [#21474][BioOneにてpdf入手可能]

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◆枝打ちをした木はクマハギされにくい[山田亜希美](2007.11.09)

これまでアメリカクロクマ(Ursus americanus)のクマハギに関して、特定の樹種が好まれること、低密度の林分が好まれることなどがわかっている。また、食物中の糖とテルペン類がクマの採餌選択に影響することもわかってきた[『クマは糖が多くてテルペン類が少ない餌を好んで摂食する』参照]。枝打ちは一般に木材を良質にするために行われる。本研究では枝打ちが維管束組織(クマの摂食部位)の糖類とテルペン類の組成を変えるのか、またそれがクマハギにどのように影響するのかを調べた。

1994年から2年間枝打ち処理をおこない、1996年5月にオレゴン州の北西部にあるオレゴン森林局の3地点でベイマツ(Pseudotsuga menziesii)とアメリカツガ(Tsuga heterophylla)から維管束組織を採取した。維管束組織は樹幹の下部、中間部、上部の3ヶ所から採取し、フリーザーバックで冷凍保存した後ガスクロマトグラフィーでテルペン類、陰イオン交換クロマトグラフィーで糖(ブドウ糖、果糖、ショ糖)の量を測定した。1997年の5月に21.4haの林分でライントランセクトにより、枝打ち処理の有無やクマハギの有無の観察をおこなった。導管組織の化学成分に関しては2要因分散分析、クマハギ被害についてはカイ二乗検定をおこなった。

枝打ちは維管束組織の量を減らし、糖の量を減少させ、反対にセスキテルペンを増加させたが、他のテルペン類は影響されなかった。樹幹の下部でテルペン類が多く、中間部と上部では差はなかった。樹幹の中間部と上部で維管束組織の量が多く、下部で少なかった。ベイマツとアメリカツガの両方とも、枝打ちが有意にクマハギに影響していた。オッズ比によると、枝打ちしてないベイマツは枝打ちしたものより4倍、アメリカツガでは3倍クマハギ被害が多かった。枝打ち処理が維管束組織の化学成分を変化させた、つまり糖と量を減少させたことがクマハギに影響したのだろう。枝打ちは費用対効果の面からも、クマハギを緩和するための有効な方法の一つである。

【山田コメント:枝打ちは将来良質な木材にしたい木に行うものだから、枝打ちした木がクマハギされにくいというのは林業家にとって朗報だ。しかしこの研究の調査地域でも10年間で植林地の4%しか枝打ちが行われていないことを考えると、クマハギ防止のために大々的に枝打ちをおこなうことが現実的な選択肢なのか疑問である。井川でたまに数メートルも上の幹までクマハギされていることがあるが、テルペンの量が関係しているのかもしれない。】

【アメリカと違って日本では枝打ちするのがふつうなので、枝打ちでクマハギが減るなら本当に朗報。日本の植林地でもちゃんと調べる価値がありそうだ。それにしてもクマはどうやって枝打ちされていない木を選ぶんだろう?】

元の文献

Kimball, BA;Nolte, DL;Griffin, DL;Dutton, SM;Ferguson, S (1998) Impacts of live canopy pruning on the chemical constituents of Douglas-fir vascular tissues: implications for black bear tree selection. Forest Ecol. Manage. 109:51-56 [#21124]

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◆春から夏に給餌してもクマの繁殖力が上がる心配はない[山田亜希美](2007.10.04)

米国ワシントン州西部の広い範囲で、アメリカクロクマ(Ursus americanus)によるクマハギから人工林を守るためにペレットの人工給餌がおこなわれている[『一時的な給餌で針葉樹に対するクマハ剥ぎを防げる』参照]が、人工給餌がクマの繁殖力を増加させて被害を増大させてしまうかもしれないという懸念がある。本研究では、クマによる給餌場の利用と体重・体脂肪の変化を調べた。

ワシントン州西部にある人工林の、給餌がおこなわれている区と給餌が一度もおこなわれていない区とで、1998年と1999年の4~7月にクマを捕獲・再捕獲し、体重測定と血液採取をおこなった。クマの血漿の安定同位体分析と糞分析によって、ペレットや自然の食物資源を利用している割合を調べた。給餌区で53頭、非給餌区で23頭のクマが捕獲された。再捕獲されたクマの体重増加は給餌区で153±119g、非給餌区で12±104gで、非給餌区より給餌区のクマの体重増加が有意に多かったが、齢級別の体重増加においては両者に差はなかった。体脂肪率に関しては給餌区と非給餌区でも齢級別体脂肪率でも差がなかった。また、給餌区で捕獲されたすべてのクマがペレットを消費していたが、食事中にペレットが占める割合は55±22%であり、その他は植物が38±18%、動物が7±7%を占めていた。非給餌区でペレットを消費していたクマはいなかった。

4~7月という短期間でのクマへの人工給餌は、一時的な体重増加をもたらすかもしれないが、その後の秋の飽食によってその差は相殺されるため、繁殖力への長期にわたる効果は与えないだろう。人工給餌はクマハギ被害を減らすために選択する価値のある方法である。

【山田コメント:クマの繁殖成功率が体重と密接に関係していることは、アメリカクロクマやツキノワグマ、ヒグマなどでよく知られていることだが、受精卵が着床するのは秋であるため、秋の健康状態が繁殖にもっとも影響を与えるのだろう。】

元の文献

Partridge, ST;Nolte, DL;Ziegltrum, GJ;Robbins, CT (2001) Impacts of supplemental feeding on the nutritional ecology of black bears. J. Wildl. Manage. 65:191-199 [#20653]

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◆伐採林縁に沿ってクマハギが増加する?[山田亜希美](2007.09.14)

森林伐採は周辺の伐採していない森林へも様々な影響を与える。カリフォルニア州のレッドウッド(Sequoia sempervirens、以下セコイアとする)林では伐採後の林縁沿いにアメリカクロクマ(Ursus americanus)による樹皮剥ぎ(クマハギ)が発生する。クマは特定の樹種、樹齢、サイズの木を好むことが知られている。この研究では、セコイア原生林および隣接する伐採地において、クマハギに関係する要因の特定を目的とした。

1998年の5~9月にかけて、米国カリフォルニア州北西部にあるレッドウッド国立州立公園の9地点で調査をおこなった。伐採時期が異なる3林分(1940s、1960s、1970s)で3地点ずつ選び、原生林と伐採地の境界に対して垂直方向にトランセクトを設置した。そのトランセクトに9個のプロットを置き、クマハギ被害、樹種、被覆の程度を測定した。

クマは全樹種の中でもっともセコイアを好み、二番目にベイマツ(Pseudotsuga menziesii)を好んでいた。これは、これら針葉樹の形成層の食味または樹皮の剥ぎやすさのためだろう。また、クマは丸太サイズの木(胸高直径10-50 cm)にもっとも好みを示した。丸太サイズの木は剥がしやすさと形成層の量がちょうど良いバランスのため好まれると考えられる。最若齢の調査地においては、被害木の密度は原生林と伐採地の境界から原生林側では距離と負の相関、伐採地側では距離と正の相関があった。原生林内では被害密度は低いが、伐採地に近い林縁ではクマハギが多く観察された。これらのことから、森林の伐採はクマハギの増加によって隣接する原生林にも影響を与えるようだ。クマは樹木が密生している場所を好んでクマハギしていたので、クマハギは天然更新木の間伐作用として機能するかもしれない。

【山田コメント:レッドウッド国立州立公園の森林は良質な木材生産という面と、世界遺産・国立公園の面を持っている。伐採業者から見れば被害だが、自然林として見るならクマハギも自然な間引きの一つなのだろう。原生林よりも伐採後の更新林分の樹木が好まれるのは、やはり光合成がたくさんできる成長の良い木をクマが選ぶということだと思う。】

元の文献

Russell, WH;Carnell, K;McBride, JR (2001) Black bear (Ursus americanus Pallas) feeding damage across timber harvest edges in northern California coast redwood (Sequoia sempervirens [D. Don] Endl.) fo rests, USA. Natural Areas Journal 21:324-329 [#21083]

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◆人工的な給餌はクマの行動範囲に影響しない[山田亜希美](2007.07.06)

ワシントン州ではアメリカクロクマ(Ursus americanus, 以下クマ)による針葉樹のクマ剥ぎ被害が、人工的な給餌で軽減できることが確かめられている[『一時的な給餌で針葉樹に対するクマハ剥ぎを防げる』参照]。しかし、クマの密度が上がると給餌場をめぐる競争や子連れのメスが給餌場を避けることによって効果が低下することが示唆されている。人工給餌による防除が広がると、クマの行動圏が狭くなって密度が高まることも懸念されている。そこで給餌プログラムを行っている地域と行っていない地域とでクマの行動範囲が違っているのかどうかを確かめた。

1998~1999年にワシントン州オリンピアの南西でラジオテレメトリー調査をおこない、人工餌を利用しているクマと利用していないクマの行動圏を比較した。給餌場所から1km以内で捕獲されたクマを給餌場を利用しているクマ(17頭)、給餌場のない林分で捕獲された個体を給餌場を利用していないクマ(8頭)とし、5~6月の給餌期間中と給餌が終わった6~9月の間、少なくとも一日おきに位置測定をおこなった。

給餌場を利用しているクマと利用していないクマとで行動圏サイズに差はなかった。給餌期間終了後に有意に行動圏が広くなっていたが、これは給餌のあるなし両方のクマで共通しており、ベリー類の実りに伴って行動圏が拡大したものと考えられる。この研究により給餌プログラムはクマの行動圏サイズに影響を及ぼさないことがわかった。子連れのメスは2頭しか調べられなかったが、給餌場を避けることはなかった。一部のクマは複数の給餌場を渡り歩いたり、多数のクマが一箇所の給餌場を利用していることもわかった。クマはよく通る場所で樹皮を剥ぐことから、もし給餌プログラムが一時停止したりクマの個体数が増加し続けたりすると給餌場周辺で被害が増える可能性もあるだろう。

【山田コメント:一度人間の食べ物や生ゴミに餌付いてしまうと、死ぬまで繰り返しあさりに来るクマの性質を考えると、野外での給餌とはいえ慎重に実行していかないと逆に被害を増大させてしまうかもしれないと思った。】

【藤岡コメント:人工給餌が行動圏や繁殖率などに影響するという研究はたくさんあるが、防除法としての人工給餌の影響をここまで調べるところがすごい。残る課題は個体数増加に結びつかないことを検証することだろう。】

元の文献

Fersterer, P;Nolte, DL;Ziegltrum, GJ;Gossow, H (2001) Effect of feeding stations on the home ranges of American black bears in western Washington. Ursus 12:51-54 [#21044]

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◆クマは糖が多くてテルペン類が少ない餌を選んで摂食する[山田亜希美](2007.04.11)

[ワシントン州に生息する]アメリカクロクマ(Ursus americanus, 以下クマ)は春にベイマツ(Pseudotsuga menziesii)の樹皮を剥がして形成層付近を摂食している。一般に15-25年生の木が狙われるが、クマは林分や木を選んで食べている。形成層付近には高エネルギーのショ糖やブドウ糖などが含まれることがわかっている。また反対に、植物の作る二次代謝産物は哺乳類の摂食を抑制する。そこで、クマが炭水化物(糖類)を好み、テルペン[精油, 針葉樹に多い揮発性の二次代謝産物]を避けるということを野生のクマによる給餌試験で検証した。

ワシントン州南西部とオレゴン州北西部に位置する6ヵ所のベイマツ林分で、1994年と1995年の春に、クマハギ被害にあった木から形成層付近の組織を採取した。サンプルは冷凍保存したのち、テルペンはガスクロマトグラフィー法、炭水化物は陰イオン交換クロマトグラフィー法でそれぞれ分析した。この調査結果でわかったテルペン類の組成を基に、給餌試験での人工精油の配合をおこなった。

野外での給餌試験は、肉骨粉56%、サトウダイコンの絞りかす46%を基本に、サトウキビ(糖)の多い少ない、人工精油(テルペン)の多い少ないの組み合わせで4種類の餌を作った。ワシントン州森林保護機関の給餌プログラム[『一時的な給餌で針葉樹に対するクマハ剥ぎを防げる』参照]の一部としてこの試験をおこなった。クマが活動していることが事前に確かめられている10ヵ所の調査地点に4種類の餌をランダムに設置し、2週間の間、クマが食べた所に新たに補給する量で1日の摂食量を測った。クマの摂食量と糖の多さとは正の相関を示し、テルペンの多さとは負の相関を示した。糖の多い餌どうしではテルペンの少ない方を、テルペンの多い餌どうしでは糖の多い方を好んで摂食していた。クマが糖を好むのはエネルギー価値が高いから、テルペンを好まないのは、消化吸収を阻害する作用があるからだろう。この調査により、クマは糖が最大量に、テルペンが最少量になるように選んで摂食していることがわかった。

【山田コメント:日本の研究ではこれとは反対にクマがテルペンに惹かれていると言われていたので、非常に興味深い研究結果だった。人工的な餌の中でクマが糖を好むのは間違いないが、はたして本当に樹木の形成層付近の糖がクマハギをおこなうカギとなっているかは、この研究ではわからなかった。】

元の文献

Kimball, BA;Nolte, DL;Engeman, RM;Johnston, JJ;Stermitz, FR (1998) Chemically mediated foraging preference of black bears (Ursus amricanus). J. Mamm. 79:448-456 [#20654]

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◆クマの個体群交流に幅の広いコリドーは有効[山田亜希美](2007.02.14)

生息地の分断は、個体数密度が低く広範囲を移動する大型肉食獣にとって特に大きなダメージを与える。分断された個体群の生息地を結ぶコリドー(緑の回廊)は、個体群どうしの交流を助けるだろう。アメリカクロクマの1亜種であるフロリダクロクマ(Ursus americanus floridanus、以下クマ)は、生息地の縮小・分断、過剰な狩猟圧によって個体数が減少し、州のほとんどの郡で絶滅危惧種に指定されている。本研究では、フロリダクロクマのもっとも大きな個体群に入るオセオラ個体群とオカラ個体群を結ぶオセオラ-オカラコリドーの有効性を検証した。

ジョージア州の生息地に続くオセオラ国有林は638km2の広さがあり、1993年まで狩猟が行われていた。オカラ国有林は1650km2あって、1971年以来クマは狩猟されていない。2002年5~11月と2003年5~8月に約30km幅、90km長のコリドーをGIS上で20km2のセルに区切り、各セルに1つ以上、計44のヘアートラップを仕掛け、毛を採取した。ヘアートラップとは、四方にワイヤーを張った中心にトウモロコシなどクマの誘引物を置き、食べに来たクマが通る時ワイヤーに毛を引っ掛けることによって毛を採取するものである[遺伝マーカによる捕獲-再捕研究のためのクマ体毛採取法(2006.04.29)も参照]。また、交通事故死体やフェンスからも毛を採取した。毛根からDNAを抽出し、12のマイクロサテライト遺伝子座の遺伝子型を特定し、それを基に個体がどこの集団に帰属するか集団帰属検定をおこなった。集団からの帰属関係(q)が>0.85ならばその集団に帰属していると判定し、両方の集団からの帰属関係がともに>0.40ならば、両個体群の交雑個体と判定した。

オカラでサンプルされた40頭はすべてオカラ個体群に帰属していたが、オセオラでサンプルされた41頭のうち2頭はオカラ個体群に帰属しており、2頭は両方の交雑個体であった。コリドーでサンプルされた31頭のうち、28頭がオカラ個体群、3頭がオセオラ個体群に帰属しており、メスは3頭だけだった。コリドーでサンプルされた個体がほとんどオカラ個体群に帰属していたことから、オカラからコリドー、オセオラへの一方的な分散が起こっていると示唆された。要因としてオカラの個体群密度が高いことや、コリドーを横切る州間高速道路がオセオラのクマの移動を制限していることが考えられる。数頭のクマがコリドーを生息地としており、両個体群の交雑個体が数頭いることから、オセオラ-オカラコリドーは個体群間の再交流の役目を果たしていることがわかった。

【山田コメント:人間が良かれと思って作った緑の回廊(コリドー)を、実際に野生動物が利用しているかどうかは、きちんと調べなければわからない。しっかりとした研究結果をもとに、保全計画がなされるべきだと思う。】

【藤岡コメント:遺伝分析もここまできたか、と感心した。それにしても、パッチ状に分断されているとはいえ、幅30kmもあればコリドーというより立派な生息地。かつてオカラで捕獲された問題クマが7頭オセオラに移されたが、その大部分はその後の足取りがわかっており、今回見つかった交雑個体はコリドーを経由した分散個体による可能性が高いようだ。】

元の文献

Dixon, JD;Oli, MK;Wooten, MC;Eason, TH;McCown, JW;Paetkau, D (2006) Effectiveness of a regional corridor in connecting two florida black bear populations. Conserv. Biol. 20:155-162 [#20807]

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◆漿果が少なく立木密度の低い林でクマハギが多い[山田亜希美](2006.11.24)

アメリカ西海岸ではアメリカクロクマ(Ursus americanus)[以下クマとする]が若い針葉樹の樹皮を剥いで形成層を摂食する被害[以下クマハギとする]が1940年代から問題となっている。ここで言う“形成層”とは辺材部と樹皮の間の木部と師部を含む多細胞の層を指す。本研究では、クマハギ被害の多い所と少ない所での春の食性の違いを調べ、クマハギ被害地の特性を明らかにすることを目的とした。

オレゴン州海岸山地の中央に位置する、各500km2の隣接した2地区(北地区・南地区)を調査地とした。事前調査によると北地区ではクマハギ被害が多く、南地区では少ない。主要な樹種はベイマツ(Pseudotsuga menziesii)である。春の食性を調べるため1987~1990年の春(5月中旬~7月中旬)に糞を採集し内容を調べた。また、飼育下の3頭のクマに4kgの新鮮な形成層を与えて糞に残る形成層を確認した。被害調査として、各地区で胸高直径が10-50cmの林分を40ヵ所ランダムに選び、100mの調査線を4本設けて、10mおきに40m2の円形プロット内の累積クマハギ被害を記録した。

南地区より北地区の糞で草本類の出現頻度が高かった(北=50%,南=29%)。逆にベリー類(漿果類)の出現頻度は北地区より南地区の糞で高かった(北=20%,南=50%)。形成層の出現頻度は南地区より北地区で高かった(北=12%,南=2%)。動物質の出現頻度は両地区間で有意差がなかった。北地区は南地区より被害木の密度が高く、被害のある林分も多かった。つまり、我々の調査地では春に栄養価の高い漿果類をよく食べている地域では形成層はあまり食べられていなかった。クマは木の密度が低い林分で直径の太い木を選択していた。これは、生長の良い木の形成層は生長の悪い木の2~6倍にもなりうるからであろう。一様な間隔で同齢の樹木が並ぶ林分は、クマの形成層摂食の効率を上げてしまうだろう。これらの結果から、異齢・異樹種の混合林としたり、被害にあいやすい樹齢期に高密度に管理したりしてクマの摂食効率を下げたり、漿果類の豊富なパッチを林分内に創出することにより、クマハギ被害を減らすことができると思われる。

【山田コメント:日本のクマハギが春の終わり~夏に起こるのが一般的なのに対し、アメリカ西海岸では春に起こっているということに驚いた。ただし、良好なエサの欠乏→クマハギという原則は変らないようなので、日本とアメリカの環境の違いによる時期のずれだろうか。この著者は形成層とクマハギ被害の関係に着目しているため、非常に自分の研究の参考になった。】

【藤岡コメント:著者のいう「春」は5月中旬~7月中旬なので、被害時期は日本と同じだろう。地中海性気候であるこの地域では5-8月には好天が続いて水分不足が木の生長に影響するため、霧のかかりにくい南西向き斜面ではクマハギは少ないようだ。】

元の文献

Noble, WO;Meslow, EC (1998) Spring foraging and forest damage by black bears in the central coast ranges of Oregon. Ursus 10:293-298 [#20719]

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◆間伐や施肥はクマ好みの木を作る!(2006.11.20)

アメリカクロクマ(Ursus americanus)は針葉樹の樹皮を剥いで形成層の導管組織を食べる。1頭のクマが1日に50-70本の樹皮を剥ぐことがある。一般的にクマは15-25年生の木を対象とし、ベイマツ(Pseudotsuga menziesii)やロッジポール・パイン(Pinus contorta)を好むことが知られている。しかし、ベイツガ(ウェスタン・ヘムロック、Tsuga heterophylla)の方がベイマツより先に芽吹くとクマ被害にあう、といった個体ごとの成長過程にも影響されるようだ。間伐された林分や施肥された林分を好み、全周が剥皮された木の隣りに無被害木があることから、クマは樹皮剥ぎ対象を選択していると考えられる。最近の我々の研究から、クマは糖類が多くてテルペン類が少ない木を選んでいることが分かってきた。本研究では、ベイマツにおいて間伐や施肥が糖類やテルペン類に及ぼす影響を評価した。

調査地は1974-1984年に植林されたワシントン州からオレゴン州の9ヵ所で、それぞれに0.47ha(0.2haの中心部と緩衝帯)の調査プロットを6個設けて、3プロットずつを施肥区と対照区に割り振った。施肥区ではこの調査(1996年)の1-4年前に尿素を224kg/ha散布した。また、無間伐(850-1400本/ha)・中程度間伐(400-700本/ha)・強度間伐(250-325本/ha)を2プロットずつ実施した(3ヵ所では一部処理のみ)。1996.05.17-07.01に各プロットの緩衝帯から8本を選んで80cm×10cm(幅)の樹皮を剥ぎ、形成層をこそげ取って冷凍・均質化し、2分割して糖分とテルペンを分析した。

胸高直径は間伐前には処理間で違いがなかったが、間伐後では立木密度が低いプロット(強度間伐区)で中密度・高密度のところより大きかった。同様に、施肥区で非施肥区より大きかった。当年の成長の指標である形成層の量は立木密度と施肥の交互作用に影響されていた。つまり、施肥は高密度林分では形成層を増やしたが、中・低密度では効果はなかった。全糖(果糖+ブドウ糖+ショ糖)は低密度区で多かった。また、前年に施肥された区では全糖は増えていたが、2年以上前の施肥は効果がなかった。テルペン類にはいずれの処理も影響しなかった。本研究により、間伐や施肥が形成層の量や糖分を増やすことが証明された。このことがクマが間伐された林分を好む理由かもしれない。

【間伐(施肥)→成長速度の向上→クマにとっての栄養価の向上→クマハギ被害増加、という分かりやすいストーリーである。ただ、中密度と高密度の間では差がないことから、「常識的な」間伐では心配ないのかもしれない。試験プロットは別の目的で設けられたもののようだ。なお、若齢時(保育)間伐では日本でやるような「選木」はしていないと思われる。同じ著者たちによるクマが糖分の多い木を選ぶという仕事はJ. Mammal. 79:448-456に載っている。】

元の文献

Kimball, BA;Turnblom, EC;Nolte, DL;Griffin, DL;Engeman, RM (1998) Effects of thinning and nitrogen fertilization on sugars and terpenes in Douglas-fir vascular tissues: implications for black bear foraging. Forest Science 44:599-602 [#20657]

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◆間伐するとクマハギ被害が5倍に増える!(2006.11.19)

アメリカクロクマ(Ursus americanus)による樹皮剥ぎは北部ロッキー山地で野火跡の森林に重大な損害を与えている。モンタナ州北西部には野火由来の森林が多く、立木密度が高いため若齢時にhaあたり250ドル以上をかけて保育間伐している。この研究の目的は、クマハギが立木密度や樹種等を選んでいるかどうかとクマハギの収益への影響を明らかにすることである。

1931年の野火跡に育った3ヵ所で間伐区(1968, 1972, 1981年に間伐)とそこから200m以内の非間伐区を調査した(計160ha)。各区では2haごとに7行×7列のサンプリング地点を設定し、一般的な立木調査に加えて被害木の成長と樹齢、周囲長に対する被害幅の割合、被害時期(5年刻みの推定)を記録した。面積あたりの立木断面積と立木数が間伐区と非間伐区で有意に異なっていた2ヵ所においては、クマハギ被害率は間伐区で非間伐区の5-7倍高かった。残る1ヵ所では立木密度でもクマハギ被害率でも有意差がなかった。8種の針葉樹のうち被害にあったのは優占度の高い3種で、全被害の63%がニシカラマツ(Larix occidentalis)、25%がロッジポール・パイン(Pinus contorta)、12%がエンゲルマントウヒ( Picea engelmannii)に対するものだった。被害木の41%は枯死木であった。胸高直径が7.5-32.5cmのうち10-20cmのものがもっとも被害率が高く、被害木の85%がこのサイズ範囲であった。腐朽菌による出荷量の減少が10%と仮定した場合の50年後の材積や出荷可能な板長は、非間伐区ではクマハギによる減少は最大の場所で4%どまりであったが、間伐区では最大17%の減少が予測された。ただし、1地区ではクマハギによる減少よりも間伐が強すぎたことによる減少の方が大きかった。

立木密度とクマハギとの関係やクマの樹種・太さの選択性、将来の収益減収を示すことができた。我々の結果からは、クマが好む樹種の場合に間伐後の密度を高めにする等の配慮をすれば、たとえ50%がクマハギにあい、25%が枯死しても間伐した方が間伐しないより収益が高いと言える。間伐区と非間伐区で差がなかった地区が1ヵ所あったが、そこでは間伐から調査まで2年しか経っていなかったためと思われる。

【この論文はアメリカの林学系雑誌に掲載されたもので、単位がフィートやエーカーなのには面食らった。論文としての仕上がりもやや雑な気がする。この論文での間伐は本数で50%ほど、haあたり500本ぐらいにまで一気に減らすもので、日本の常識とはだいぶ違うことに注意。著者らの関心とは別になるが、クマは間伐された林分を好むというのはクマの採食戦略という視点から興味深いので、少し古い論文だが紹介した。ところで、野火跡での針葉樹更新というのは日本ではイメージしにくいだろう。私はワシントン州のカスケード山地で焼けて枯れた木がまだ残る広大な丘陵地で針葉樹の若木が一斉に育っているのを見たことがあり、日本との違いに感銘した思い出がある。】

元の文献

Mason, AC;Adams, DL (1989) Black bear damage to thinned timber stands in Northwest Montana. West. J. Appl. For. 4:10-13 [#20658]

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◆島に導入されたシカがクマを絶滅させた!(2006.11.17)

移入種による在来種の減少は特に島において多数の報告があるが、大型哺乳類が別の大型哺乳類を絶滅される例は稀である。ここでは、大きな島にすむアメリカクロクマ(Ursus americanus、以下、クマ)が導入されたオジロジカ(Odocoileus virgininianus、以下、シカ)によって50-70年の間に絶滅したと思われる例を報告する。

舞台はカナダ・ケベック州のセントローレンス湾に浮かぶ大きな島、アンティコスティ島である。面積7,943km2[静岡県よりやや広い]の大部分では北方針葉樹林が優占し、クマの餌となる漿果をつける低木が豊富だった。正確な数字はないものの、19世紀の終盤まではクマは豊富だったが、1950年までには稀になってしまった。1896年にクマとネズミの1種しか哺乳類がいなかったこの島へ約220頭のシカが導入された。シカは1934年までに5万頭以上、1960年代には6-12万頭に増えた。2001年と2002年に島の西部の14林分で10m2のプロット420ヵ所で調べたが、北方針葉樹林ではふつうであるはずの落葉性低木5種がまったく見つからなかった。2004年に141プロット(2m四方)で漿果を数えたところ、平均はわずか0.28漿果/m2であった。これは、クマが体重を維持するのに必要と推定されている量の235分の1にすぎない。

クマの消失には他の説明も可能かもしれないが、シカによる漿果の減少以上にうまく説明できるものはなさそうである。子ジカなど他の餌は、クマがもっとも栄養を必要とする秋には十分な量がない。シカは導入されたものでも在来のものでも生態系に強い影響を与えるので、捕食者がいない、あるいは稀な地域ではシカのインパクトを減らす積極的な管理が進められるべきである。

【さすがシカ、という感じである。ただ、著者はシカの植生へのインパクトを強調するあまり、在来か外来かを問わないという姿勢のようで、それでいいのかは疑問が残る。クマがいつ絶滅したと推定されているかや図表や数値データが掲載されていないのも残念。皮肉なことに、この島はシカ猟では有名なようだ。野生動物保護管理の専門家は、かつてはこうした人の勝手な行為に手を貸してきたことも忘れてはならない。】

元の文献

Cote, SD (2005) Extirpation of a large black bear population by introduced white-tailed deer. Conserv. Biol. 19:1668-1671 [#20689]

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◆クマハギをおこなうのはメスグマに多い[山田亜希美](2006.07.28)

米国の太平洋岸北西部ではアメリカクロクマ(American black bear Ursus americanus、以下クマとする)による樹皮剥ぎ(クマハギ)が林業地で問題となっている。クマハギをおこなうのはメスグマが多いという示唆があるが、被害防除策として行われている捕獲は特定の性別や年齢のクマをターゲットとしていない。この研究ではクマハギをおこなうクマは本当にメスが多いのか検証し、それを踏まえて現行の捕獲方法が効果的かを検討した。

調査地は、米国ワシントン州オリンピック国立公園の南側にあるベイツガ帯で、国有林と私有林が含まれ、伐採と植林が繰り返されてきたため長寿命のベイマツが優占している地域である。1997年と1998年にクマを捕獲して発信機を装着し、1998年に22頭、1999年に19頭について5月~8月に週1、2回航空機より位置を定位した。また、位置定位できた場所を中心とする1haのプロット内で新しいクマハギ痕や糞、足跡を探索した。捕獲したクマは性と年齢による4つのクラス(大人メス、若メス、大人オス、若オス)に分類した。

位置定位できた164ヵ所のうち10頭による16ヵ所で新しいクマハギが確認された。そのうち大人メスによるプロットが44%、若メスが25%、大人オスが19%、若オスが12%とメスによる頻度が高かった。プロットあたりでの平均被害木数も、大人メス3.7本、若メス3.0本、大人オス1.3本、若オスが1.0本とメスの方が多かった。この2つに被害期間を掛けた総被害量もメスのほうが有意に高かったが、年齢による差は有意ではなかった。一方、1994~1999年にワシントン州で狩猟されたクマは年平均で1,249頭で、そのうち67%がオスで33%がメスであった。同期間の有害捕獲では、年平均99頭のうち66%がオスで34%がメスであった。クマハギ総被害量の89%はメスによるにもかかわらず、捕獲総数のうちメスは33~34%にすぎないことから、現行の狩猟・駆除は見直すべきである。しかしメスに標的を絞って捕獲するの政治的にも社会的にも受け入れられない。給餌による防除効果や給餌に対するメスの反応についてさらに研究することを勧めるべきであろう。

【山田コメント:私は、クマハギは特定の癖になってしまっている個体がおこない、親がクマハギをするなら子も真似をするものと思っていた。しかし、親から子へ伝わるならオスもメスも同じはずなのに、メスだけに多いというのは不思議だ。メスに多い原因を探るのも面白いと思う。】

【藤岡コメント:なぜメスが多いかについてはいくつかの説が紹介されているが、よく分かっていないようである。それにしても、捕獲数には驚いた。】

元の文献

Collins, GH;Wielgus, RB;Koehler, GM (2002) Effects of sex and age of American black bear on conifer damage and control. Ursus 13:231-236 [#20429]

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◆グリズリーを運んでもほとんどが戻ってきてしまう[山田亜希美](2006.07.10)

グリズリー(Ursus arctos、日本のヒグマと同種、以下クマとする)はアメリカの大陸48州で数が減っており保護が必要とされているが、人間とクマとの事故や軋轢は後を絶たない。その原因を解決するまでの短期的管理法としてよく用いられるクマの運搬[藤岡注:日本で行われている移動放獣と違って、カプサイシンスプレーによる嫌悪条件付けはしていないようなので、運搬とする]について、電波発信機装着個体をモニタリングすることによって、その効果や影響を調査した。

イエローストーン国立公園の中央部で亜高山帯に属する2万km2を調査地とした。1975~1993年の間に捕獲されたクマに電波発信機付き首輪を取り付け、小型飛行機から週1回の位置測定で追跡した。また、調査地の優占種でありクマにとって秋の重要な食物となるホワイトバークパイン(五葉マツの一種)の実の豊凶も調べた。クマの保護管理行為や捕殺のほとんどはホワイトバークパインが不作の年に起こっている。

クマと人との軋轢が生じた状況は開発地や住宅地、ゴミ捨て場、キャンプ場などであり、保護管理上捕まったクマは81頭で計138回の運搬が行われた。同期間に研究用に捕まったクマは169頭であった。最初の運搬で戻ってきたクマは81頭中41頭であり、戻ってくるかどうかは運搬距離に強く影響された。75km未満のでは83%が戻ったが、75km以上では半分以上が戻らなかった。若いメスの場合75km以上であれば戻る率は減少するが、大人のオスは距離に左右されにくく、100km以遠に運んでも半分は戻ってきた。運搬されたクマの死亡率は、されていないクマよりも有意に高く、とくに捕獲場所に戻ってきたクマで高かった。ホワイトバークパインが凶作だと運搬の頻度が増え、豊作だと減少した。単独メスを運搬すると翌年の出産率が下がるという報告があるが、今回の研究ではそのような負の影響はみられなかった。

高い帰還率や戻ってきたクマの死亡率の高さから、運搬はクマを殺すしかない状況での最後の選択肢とみなすべきである。運搬を減らすにはクマを引きつける食物資源の除去が大事である。運搬の成功率は低いが、メスの運搬は繁殖によって個体群に貢献できるので、保護管理技術として重要である。

【山田コメント:一度生ごみの味を覚えたり人間の食べ物を奪ったりしたクマの習慣を変えることは容易ではなく、結局殺されてしまうのだなと思った。移動放獣はとりあえずの応急処置にしかなっていない。個体数が少ないのに人間との軋轢が多いということは、クマを殺さない(減らさない)ような管理方法が必要とされる。意図的であろうと非意図的であろうと、絶対にクマを餌付けないようにする努力が大切だと思う。】

元の文献

Blanchard, BM;Knight, RR (1995) Biological onsequences of relocating grizzly bears in the Yellowstone ecosystem. J. Wildl. Manage. 59:560-565 [#20404]

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◆森林管理はクマの生息地を悪化させるか?[山田亜希美](2006.06.05)

米国ノースカロライナ州西部、アパラチアン山脈の南にあるピスガー・クマ保護区(Pisgah Bear Sanctuary)は、ノースカロライナ州でもっとも大きなアメリカクロクマ(以下、クマ)の保護区域である。大部分が85±25年生のツガ、ポプラ、カバノキ、ブナなどの森林で、原生林はほとんど残っていない。狩猟は禁止されているが、U.S. Forest Serviceによって森林の伐採や搬出のための道路建設がおこなわれており、クマの生息地を悪化させることが懸念されている。

ピスガー保護区で1981-1994年の14年間にクマを127頭捕獲し、ラジオテレメトリー調査で1頭につき121.5±72.28回の位置測定をおこなって利用環境を調べた。また、生息地の適合性を測るHSI(habitat suitability index)という指標を計算するために1983-1984年と1993-1994年に食物資源の量とアクセス、水、道路、越冬穴などのクマの生息に影響を与える要素を評価し、テレメトリーの位置精度に合わせて250m四方のスケールで年ごとのHSIマップを作成した。全体のHSIに大きな変化はなかったが、一部で伐採箇所や道路が密になっているところはHSIが低下していた。大人のオスとメスはHSIの低下した地区を避けていたが、若いオスはむしろHSIの低下した地区を選択していた。行動圏内におけるHSIの低下した地区の割合は大人のオスで大人メスや若オスより少なかった。

若いオスがHSIの低い地区も利用していたのは、決まった行動圏を持っておらず土地の変化に対して鈍感なことや、大人のオスとの接触を避けるためだと考えられる。大人のクマがHSIの低下した地区を利用しないことから、森林管理はクマの生息地にとって悪影響を与えることがあるといえる。伐採して10年以下の間はブドウやコケモモなどのベリー類の増加がみられるが、それ以降の樹冠が閉鎖してしまってからは堅果類を豊富に実らせるまでに長期間必要で、結果的に食物の不足やを招く。また、道路建設は森林の分断化と人との接触増加により生息地に悪い影響を与えるだろう。しかし、本研究の結果を過度に単純化するのではなく、森林管理のクマへの影響は餌が豊富さや狩猟の有無などによって異なることに留意すべきであろう。

【山田コメント:この論文以外にもクマと森林管理の関係については色々と調べられており、その中のいくつかでは良い影響を与えるという報告もある。その土地によって森林管理の仕方や気候などの環境条件が異なるため、一概に森林管理が悪いとは言えないとは思うが、これだけの捕獲数や期間をかけて研究した今回の結果は説得力があると思われる。それにしてもこれだけのサンプル数と労力をかけてもクマの反応は性や年齢で異なっているなど複雑で、研究などで結果を出すのは大変な生き物だとつくづく感じた。】

【藤岡コメント:確かに長期に多数個体のデータを取っているが、伐採面積は全体のごく一部であることもあって、森林管理はクマにほとんど影響していないというのがむしろ主要な結果のように見える。HSIは、生息環境の変化を量的に評価するためにアメリカの環境アセスメントでルーティン化されているHEP(Habitat Evaluation Procedures)で使われる指標で、日本で導入を目指す人やグループは少なくない。環境アセスでの意義はともかく、生態学的にはどうだろうか。】

元の文献

Mitchell, MS;Powell, RA (2003) Response of black bears to forest management in the southern Appalachian mountains. J. Wildl. Manage. 67:692-705 [#19827]

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◆遺伝マーカによる捕獲-再捕研究のためのクマ体毛採取法(2006.04.29)

最近では毛根からDNAを採取してヒグマ個体数が推定されている。体毛採集のために匂いなどで誘引するワナが使われてきたが、複数個体の体毛が採れてしまい、分析の効率が低下する欠点があった。そこで、単一個体の体毛を採取するワナを作成した。

作成した体毛ワナは、オオカミ用の首ワナを改良し、一度クマが引っかけると機能を失うよにしたもの。アラスカ南東部でサケの遡上期に2年間で1,545個かけ、うち1,000個が何かによって引っかけられた。このうち455個が体毛を捕らえていた。これらの体毛サンプルのうち68%で遺伝型から個体を特定でき、計67オスと66メスが捕らえられた。3サンプル(1%未満)は複数個体の体毛と判定された。

我々のワナは高密度地帯でうまくヒグマの体毛を個体別に採取できた。このワナは誘引物を必要とせず、制作も取り替え・移動も容易である。性別や体サイズ(別の捕獲データとの照合による)にも偏りがなく、DNAサンプルの採取・個体数推定に大変有効である。

【フィールド技術は現場をよく知っている人がちょっとした工夫をすることで大きく向上する。この論文は単純なノウハウ話だが、なかなか考慮が行き届いていて、テストの成果も十分。ただ、日本のツキノワグマの場合は低密度のことが多く、やはり誘引物を置くのが実用的だろう。クマの体毛ワナやDNAによる個体識別は、日本でも森林総研・東北支所の岡氏らによって行われているようだ。】

元の文献

Beier, LR;Lewis, SB;Flynn, RW;Pendleton, G;Schumacher, TV (2005) A single-catch snare to collect brown bear hair for genetic mark-recapture studies. Wildl. Soc. Bull. 33:766-773. [#20305]

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◆「クマの畑」は話題作りのため?(2006.03.31)

【一言で言うなら、買ってまで読む本ではない。一部の自然保護運動家には参考になるかもしれないが、野生動物問題に関心があったとしても無視していい。】

【そうだろうと思いつつも、生態学会の会場で割引価格に釣られて買ってしまった。森が減ったせいでクマが里に出てくる、というよくある話が何の根拠もなく繰り返し出てくるし、クマの金銭的な取引が過大に描かれているようだ。山麓でデントコーン畑を作ってクマに食わせることで下の畑が守られているというが、冷夏には早々に食い尽くされて役割を果たせていない。要は肝心なときに役に立たない。コストや面積を考えるとしょせんは非現実的な被害対策である。それでも問題提起になっていることに価値があるかのような著者の姿勢は、「素人」をいいことに無責任すぎるのではないだろうか。】

【被害対策として安易に駆除だけが行われることには私も反対である。給餌によって林業被害を防ぐアメリカでの試みも紹介した。しかし、山を「豊か」にすることや、非計画的な給餌(畑)では問題は解決しないと思う。】

元の文献

板垣 悟(2005)『「クマの畑」をつくりました』地人書館,182頁 [#20322]

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◆ゴミに餌付いたクマにはゴム弾も犬も効果なし(2005.08.22)

米国ネバダ州西部のある地域では、1990年~2000年に人口が26%増加し、市民からのアメリカクロクマ(Ursus americanus)についての苦情が10倍以上に増えている。この地域で、北米で一般的に行われている非致死的なクマ対策の効果を評価した。

62頭のクマを捕獲して発信機を装着し、1~75km移動してから放獣してその後の位置をセスナ機で毎週探索した。放獣前に、1)ゴム弾やクラッカー、唐辛子スプレーなどで脅す(お仕置き)、2)それに加えて猟犬に追わせる、3)何もしない、という3通りの処理を施した。62頭のうち33頭は30日以内に、17頭は31~180日に、7頭は181~365日に捕獲地点に戻り、5頭は戻るのに1年以上かかった。1年以上してから戻った5頭のうち4頭は犬に追われたクマだった。戻るまでの平均時間は、お仕置き+犬で154日、お仕置きで88.4日、お仕置きなしで76.5日だったが、処理間で有意な差はなかった。

40日以内に44頭(70%)が元の場所に戻ってしまい、さらに戻るまでの日数にも1日~641日と大きな個体差があった。どこでも通用する非致死的対策はないので、どのようなクマ対策を取るべきかは損益分析によって決めるしかない。野生動物と人との対立を減らすために、今後の研究は市民教育とクマ対策ゴミ箱に向けるべきだ。

【意図的であろうが非意図的であろうが、一度人から餌を得ることを覚えてしまった野生動物を人から遠ざけるのがいかに難しいかを改めて示した研究。62頭ものクマをセスナ機で追跡するという調査規模は尊敬に値するが、それでもクマの「個性」ゆえに統計的に有意な結果が得られないということにも驚かされる。国内でゴミに餌付いたクマ対策の例としてはNPO法人のピッキオを是非参照されたし。】

元の文献

Beckmann, JP;Lackey, CW;Berger, J (2004) Evaluation of deterrent techniques and dogs to alter behavior of "nuisance" black bears. Wildl. Soc. Bull. 32:1141-1146. [#20065]

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◆一時的な給餌で針葉樹に対するクマ剥ぎを防げる(2005.01.28)

米国有数の林業地域であるワシントン州には2.5-5万頭のアメリカクロクマ(black bear, Ursus americanus)が生息し、針葉樹のクマ剥ぎによって毎年何百万ドルもの損害を出している。駆除に反対する圧力が高まる中で、1986年から一時的な給餌によって被害を減らすプログラムが実施され、現在では毎年900ヵ所で240-250トンの餌が使われている。その効果を検証するのがこの研究の目的である。

クマ剥ぎが発生しているが対策が実施されていない地域で、16-20haの植林地を単位として7組の給餌区と対照区を設けた。事前にクマ剥ぎを調べながら1ヵ所につき1000本をマークし、その後4年間、毎年同じ木を調査した。1ヵ所につき2つの給餌場を設け、糖質25%などを含むペレットを給餌場当たり毎週100kgを被害発生期(4-7月)に置いた。効果は抜群で、4年間に新たに被害にあった本数は、給餌区では平均4.9, 10.3, 2.8, 3.4本に対し、対照区では26.1, 21.6, 14.8, 16.0本であった。さらに、給餌区2ヵ所で後半2年に給餌を止めたところ、被害率は跳ね上がった。

一時的な給餌は、きちんとやれれば被害を減らせることは確かだ。十分な量を給餌すれば、クマ同士の競争によって一部のクマが餌を採れないということも生じない。7月になって漿果が実るとクマは自然に給餌場を使わなくなるので、給餌をやめればいい。今後は、この方法の経済性について評価することが課題である。

【井川演習林でもクマ剥ぎ被害は深刻なので、朗報ではある。ただ、餌台が$110、餌ペリットが$495/tonかかるというコストがやっぱり問題か。なお、ワシントン州では、クマの密度があまりに高い地域では駆除も並行して実施している。】

元の文献

Ziegltrum, G.J. (2004)Efficacy of black bear supplemental feeding to reduce conifer damage in western Washington. J. Wildlife Management 68:470-474. [#19835]

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