◆エルクはオオカミや道路を避けて定着するが、道路沿いはよく使う(2007.01.31)
どこに行動圏をかまえるかと行動圏内のどこを利用するかは違う環境要因に影響されているかもしれない。本研究では、20世紀初頭までに北米東部の大部分から絶滅し、近年に再導入されたエルク(Cervus elaphus)の環境選択をManlyの資源選択関数(Resource Selection Functions)を使って複数の空間スケールで評価した。
米国ウィスコンシン州北部の調査地では1995年に25頭のエルクが再導入され、2002年には110頭にまで増えた。ここでは1989年からオオカミが再定着している。発信機を装着した57個体のエルクを1999-2002年の5-9月に10-14日おきに車で探索して得られた867地点を分析した。大スケールでは、エルクが生息する地域全体[約20×35km]でエルクの利用地点とランダム地点の周辺環境を半径60-1,020mの9段階の解析サイズで比較し、小スケールではエルクの行動圏内の利用地点とランダム地点を同様に比較した。環境要因としては森林率、餌量、オオカミのなわばり中心からの距離、道路からの距離を分析対象とした。餌量は、8つの植生タイプに計452本設けた30m調査線沿いでの植物現存量などをもとに植生タイプごとの推定値を求めた。オオカミの行動圏は2001年10月~2002年3月に発信機個体の追跡から得られたものを使った。
大スケールの分析結果では、エルクはオオカミのなわばり中心と道路から遠くて、広葉草本やイネ科・カヤツリグサ科草本が多く、低木やスゲ類の少ないところに行動圏をもつ傾向があった。小スケール(行動圏内)では、エルクはオオカミのなわばり中心から遠いところをよく利用したが、大スケールと違って、道路に近いところを好んだ。広葉草本やイネ科・カヤツリグサ草本科が多くて低木の少ないところをよく利用したが、森林率やスゲ類には影響されなかった。いずれのスケールにおいても環境の解析サイズによる違いはなかった。
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◆シカも窮すれば通ず:落ち葉やまずい植物でも生きていける[寺田千里](2007.01.22)
有蹄動物による摂食はしばしばフロラや植生構造を変えてしまう。特に島に導入された有蹄動物は、植物を過度に食べて植生を悪化させ、ときとして食物の制約のためにクラッシュに至る。餌資源に制約のある環境におけるニホンジカCervus nippon(以下、シカ)の採食行動を知るために、北海道洞爺湖中島(約500ha)においてクラッシュ後のシカの食性を調査した。中島では、1965年にシカが3頭導入され、1983年に299頭まで急激に増加し、1984年にクラッシュがおきている。採食行動は1993年から1995年にかけて13.4kmの固定ルート(落葉樹林帯12.1km、草原0.3km、針葉樹人工林1.1km)で月に1回以上観察した。採食中のシカを見つけた場合(n=747)、採食物と採食している高さを記録した。また、クラッシュ前の個体群成長期(n=11)とクラッシュ後(n=55)の新鮮な死体から第1胃の内容物を得て、ふるいにかけて、残った断片を植物分類群ごとに数えた。
落葉広葉樹の落ち葉は年間を通じて継続的に多く採食されていた。また、丈の低い草(以下、低草)の採食は春から始まり、夏がピークとなって秋まで採食されていた。積雪のため低草が採食できない冬は、不嗜好植物であるハンゴンソウ(Senecio cannabifolius)やイケマ(Cynanchum caudatum)、ハイイヌガヤ(Cephalotaxus harringtonia)を採食していた。クラッシュ後の胃内容物には、春56%、夏83.5%の落葉紅葉樹の葉が含まれていた。冬と春には、不嗜好性植物であるハイイヌガヤの割合が増え、秋にはドングリや木の実が胃内容物に多く含まれた。草本類で一番よく採食されているは不嗜好性であるハンゴンソウとイケマの成熟した葉と茎であった。一方、個体群増加時期の胃内容物は、冬には樹皮や小枝が多く含まれ、ついで落葉広葉樹の葉とササが含まれており、春にはグラミノイド(イネ科・カヤツリグサ科)の割合が高く、ついでシダ植物が含まれていた。
餌資源の制約がある環境では、冬においても夏においても、落ち葉はシカにとって重要な餌資源となっていることがわかった。冬においてはハイイヌガヤ、イケマ、ハンゴンソウといった不嗜好植物を採食していた。それらの植物はシカが好む植物の分布が衰退するにつれて分布を広げていった植物である。食物に制約のある環境ではシカは、幅広くさまざまな植物を採食するようになるだけでなく、予想もしていなかったような植物を利用するようになる。
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◆高密度のヤクシカは食べたり踏んだりで実生に影響する[寺田千里](2006.08.03)
哺乳動物は植生の構造を決定するのに重要な役割を果たし、特に実生(幼木)の生存や生長に影響を与える。鹿児島県屋久島の西部地区ではヤクシカ(Cervus nippon yakushimae)が高密度で生息することがわかっている。この研究では、シカ高密度生息地域において特に実生に注目し、(1)50m×50mの調査地内の毎木調査・食痕調査から植物種ごとのシカの嗜好性を推定し、(2)シカ排除枠(2×2mの柵)と非排除枠(各8反復)にシカの嗜好植物(バリバリノキ・シロダモ・イヌガシ・フカノキ・シャシャンボ)と不嗜好植物(アデク・サカキ・ヒサカキ)の種子を撒いて5月~12月の10日~1ヵ月おきに実生の出現数・残存数を調査した。そのほか、(3)各植物の種子重を測り、(4)シカの生息密度を調べるために糞粒調査も行った。
シカ排除枠・非排除枠に撒いた8種の実生ともシカ排除枠で多く生存しており、嗜好種であるバリバリノキ・シロダモ・フカノキと不嗜好種であるアデクは有意に排除枠で多く生存していた。シカ非排除枠ですべての嗜好種の死亡率が増加したわけでなく、嗜好種と不嗜好種で有意な死亡率の差はなかった。むしろ、種子や実生のサイズが大きい植物(バリバリノキ・シロダモ・アデク)が影響を受ける傾向にあった。
糞粒調査から推定されたシカ密度は51.5~63.8頭/km2と非常に高密度であり、高密度のシカは特に種子サイズの大きな実生の生存率に影響していることが明らかになった。シカによる影響は摂食によるものだけではなく、物理的攪乱により嗜好種・不嗜好種の両方の死亡率に影響していた。現時点では植生の変化は少ししか見られていないが、高密度のシカによるダメージは複雑でゆっくりとした効果をもたらすので、今後もこの地域の森林が維持されるかどうかについてはさらなる研究が必要である。
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◆伐採跡地での除草剤使用でシカ類の餌が減る[寺田千里](2006.06.23)
皆伐後地に生える植生はシカ類の餌になるが、林業上はやっかいものでもあり、カナダ中西部では機械的ないしは除草剤による取り除かれている。本研究ではシカ類の餌量に対する除草剤の長期的影響をアルバータ州のアメリカヤマナラシ(ポプラの1種aspen、Populus tremuloides)が優占する広葉樹林の伐採地で調べた。
伐採地に560m×180mの調査ブロックを3つ設け、各ブロック内の80m×180mの処理プロットごとに除草剤(ヘキサジノン)の散布量を変えて(0、2、4kg/ha)投入した(3処理3反復)。除草剤散布直前の伐後3年目と、除草剤散布後の伐後5年目、9年目、20年目に植生を調査し、ヘラジカ=ムース(Alces alces)、アメリカアカシカ=エルク(Cervus elaphus)、ミュールジカ(Odocioleus hemionus)のFI(forage index:餌指数)を評価した。餌指数は植物種ごとの餌選好性と餌量の積の総和で、餌選好性については文献から、餌量については、冬は新枝・新芽の量(browse abundance)を反映する立木密度、夏は低木と草本の被度から求めた。
除草剤無投入区では伐採して5年後に冬の餌量が未伐採地の3.6~5.5倍にまで増えたがその後減少した。除草剤投入区では2kg/ha区で最大18%、4kg/ha区で最大48%無投入区より餌量が減少していた。全体を通して、除草剤はシカ類3種の冬の餌量とエルクの夏の餌量を継続して減少させた。逆に、除草剤はムースの夏の餌量をやや増加させた。ミュールジカの夏の餌量には除草剤の影響は見られなかった。
シカの個体数制限要因としては冬の餌量の方が重要であり、除草剤投入はシカ類が好む植物を少なくとも17年間は減少させ、生息環境の好適性を低下させた。北米では除草剤の野生生物への影響はよく研究されているという意見もあるが、長期的・広域的な影響は未解明であり、さらなる研究が必要である。
【藤岡コメント:こんなに空間的にも時間的にもスケールの大きな仕事を大学関係者2名でやったのかと驚いたが、さすがに初期のデータは別事業によるようだ。寺田は紹介していないが、この論文では典型的な施業が行われた場合の「累積影響モデル」も示している。ただし、私にもその意義はあまり分からなかった。なお、餌量評価では実際にシカ類に食べられてしまった量には配慮していないようだ。】
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◆シカはそんなに悪者なの? 森は草原よりいいの?(2006.04.14)
【シカがここ20~30年で増えているのは確かだし、植生に影響しているのも確かだろう。農林業への被害対策は必要だ(井上雅央・金森弘樹(2006)『山と田畑をシカから守る』農文協、参照→「サル編」ほどすっきりしないけど)。が、自然生態系についてはどうだろうか。松田氏は15年ほど前にアメリカでハイキングしてもあまりシカを見かけなかったそうだが、それより少し前にアメリカにいた私は、多数のバイソンやシカ類を各地で見た。ずっと後だが、ケニヤのサバンナでみた草食獣の群れもやっぱり圧巻だった。いずれも、草原状態の維持そのものに草食獣が影響している。深い森だけが豊かな自然ではないだろう。もちろん、日本は気候条件が違う。しかし、気候や生物相の長期的な動態、突発的な気象現象などによって、私たちが記憶している「生態系」から大きくずれてしまうことはあって当然ではないだろうか。】
【ときどき誤解されるのでこの機会に書いておくと、私はシカ捕獲そのものに反対しているわけではない。むしろ狩猟賛成派である。伝統的な狩猟文化とアウトドアスポーツとしてよりオープンな狩猟の両方とも大事にしたいと考えている。有害鳥獣駆除も必要に応じてやればいいという立場である。しかし、自然生態系の保全のためと称して、その一部であるシカを税金をかけて管理する(捕獲する)、というのはどうも腑に落ちない。】
【私のようなことを言う人は他にもいるようで、本書でも反論が散見される。できれば再反論も含めて改めて整理したいと思う(できない可能性が高いが)。】
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◆シカの個体数調整に狩猟は役立つか?(2006.02.18)
中北米に広く分布するオジロジカ(Odocoileus virginianus)は、個体数が増加し続けており、狩猟によって個体数が抑制できるのか改めて議論になっている。
ニューヨーク州の環境の違う4地域においてオジロジカの個体数を安定させるのに必要なメス(正確には角なし個体)捕獲数、大型獣の狩猟免許を購入した5千人が実際に捕獲したメス数、捕獲数制限(現在2頭)がなくなった場合の捕獲希望数に基づく潜在捕獲数の3つを比較した。その結果、どの地域でも実際の捕獲数は必要捕獲数に届かず、2地域では潜在捕獲数でも必要捕獲数にまだ足りなかった。別の角度から分析すると、捕獲制限をなくし、捕獲効率が維持されるとしても、2地区では狩猟者数が足りないと試算された。
都市近郊では狩猟だけによる個体数調整は難しい。他の様々な管理も組み合わせていく必要があるが、今のところ狩猟以外に中心的な手だてはない。今後、メス捕獲制限の緩和などのきめ細かな誘導策を立てたり、狩猟の役割やシカ増加の問題点などを市民に普及していくしかない。
【なお、この論文が掲載されたWildlife Society Bulletinの28巻4号は狩猟の特集号で、他にもいくつかの関連論文が掲載されている。米国では狩猟は一般的なレクレーションとして定着しているし、日本のように狩猟者が全国的に減少しているわけではないが、シカ類が増加する中で、ハンター側では大型個体や角をねらう傾向が強まっており、結果として、個体数抑制の役割が十分果たせていないという面もあるようだ。】
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◆オジロジカの広葉樹林への影響-野外柵による検証(2005.02.28)
アメリカ東部ではオジロジカ(white-tailed deer, Odocoileus virginianus)の保護管理をめぐって激しい論争が続いている。生物学者の間でも、シカ個体群の自然変動は許容されるべきだという考えと、ヨーロッパ人入植後の景観変化によってシカの自然減は期待できないので、シカは捕殺によって管理されるべきだという考えがある。この研究では、10年にわたって異なる密度を維持するシカ柵実験によってシカ密度が長期的な植生に影響するかどうかを検証した。
ペンシルバニア州の広葉樹林4地域に、それぞれ65haのシカ柵を設けて野生のシカを排除し、内部を4つに仕切って、飼育下で育てられた♀シカを、26ha区画に1頭、13ha区画に1頭、13ha区画に2頭、13ha区画に4頭、それぞれ導入した(実現密度はぞれぞれ4,8,15,25頭/km2)。各区画内の10%を皆伐し、30%で間引き(間伐)を行い、その後0-1年、3年、5年、10年目に植生を調査した。その結果、シカ密度の増加に伴って、下層植生ではキイチゴ類が減少、シダ類やイネ科・スゲ類草本が増加し、樹木ではブナやカエデ類が減少したり樹高の伸びが低下し、black cherry(バラ科サクラ類の高木)が増加した。また、植物種の多様性も基本的にシカ密度が高いほど低下した。【皆伐区、間伐区、非操作区ごとに違うが、簡略化。】この成果は、シカは、ほぼ密度に直線的に比例して長期的な植生に影響を及ぼすことを証明した。
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