◆オオカミ導入でアカシカの環境選択は夏には変わったが冬には変わらず(2006.10.06)
動物は資源へのアクセスと捕食リスクのトレードオフにしばしば直面する。草食獣はオオカミ(Canis lupus)が高密度でいるところを避けるという報告がこれまでに多数出ている。イエローストーン国立公園(YNP)では1995年にオオカミが導入される前にはアメリカアカシカ(Cervus elaphus, 米国名elk)の幼獣の40%がクマやコヨーテに捕食されていたが、成獣が捕食されることはほとんどなかった。オオカミは導入時の31頭から2003年には174頭にまで増え、その餌の多くをアカシカに依存している。そこで、オオカミの存在がアカシカ成獣の環境選択に影響を与えているかどうかをオオカミ導入前と導入後に発信機を付けたアカシカを追跡することによって調べた。
オオカミ導入後の2000~2002年に80雌について夏に1,560、冬に1,590の位置情報を、導入前の1985~1990年については28雌で夏に431と冬に738、66頭の幼獣で夏に724、冬に322の位置情報を得た。雌と幼獣では環境選択に違いはなかったので込みにした。オオカミについても32~45頭の発信機装着個体の位置情報を使用した。環境選択についてはManlyの資源選択指数(Resource Selection Functions)で評価した。1988年に起こったYNP全体の36%が焼ける大規模な山火事も要因として加えて分析した。
オオカミが標高の低い地域で繁殖する夏には、アカシカはオオカミ導入後により標高が高い地域とより開放的でない環境(特に山火事跡の森)を選択した。一方、冬にはアカシカはオオカミ導入後の方がより開放的な環境を選択し、オオカミの密度が高い地域を避けている傾向もなかった。
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◆オオカミがいると落ちついて餌をとれない(2006.02.17)
イエローストーン国立公園では、1994-95年の冬に20頭のオオカミが再導入され、2000年までに100頭以上にまで増えている。ここのアメリカアカシカ(Cervus elaphus)やアメリカバイソン(Bison bison)は、半世紀の間オオカミにさらされてこなかったが、再導入に伴って捕食の危険が増え、警戒行動が増えるものと予測される。
アカシカについては1996年から、バイソンについては1998年から2000年まで、公園内のオオカミ定着地域と未定着地域のそれぞれで、道路から採食中の個体を見つけて15~30分間行動を記録した。観察対象は成獣に限り、10頭未満の群れでは全個体を、それ以上の群れでは位置に偏りがないよう選んだ個体を観察した。
群れサイズは1頭から数百頭までさまざまであったが、警戒行動の率とは相関がなかった。アカシカについては、オスでは警戒行動が増えることはなかったが、メス、特に子連れメスでは、オオカミ定着地域で警戒行動が顕著に増加し、それに伴って採食に割く時間が20%ほど低下した。さらに、オオカミの分布拡大に伴って、未定着地域のメスでも警戒行動が経年的に増加した。バイソンにおいても、オスではオオカミの有無で差がなかったが、子連れメスではオオカミ定着地域で警戒行動に割く時間が多く、採食時間が短かった。オスで警戒行動が増加しなかったのは、オスの繁殖成功率が体サイズに依存していて、採食行動を減らす不利益が大きいためかもしれない。オオカミは、直接的な捕食だけでなく、獲物となる動物の場所選択や時間配分に重要な影響を及ぼし、ひいては地域の植生にも影響していくだろう。
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◆イノシシ対策には給餌や電気柵ではなく狩猟が一番(2005.08.30)
ヨーロッパでは1980年頃からイノシシ(Sus scrofa)の個体数も分布も拡大しており、それに伴ってトウモロコシや小麦などへの被害が深刻化している。被害対策として一般的に行われている狩猟、森林での給餌(効率的な狩猟のため)、電気柵のいずれが有効かを検証した。
スイスのCanton Thurgau地域(8.6万ha)で、1994~1996年の被害状況と3つの被害対策の関係を44の猟師なわばりごとに解析した。この地域では森林が21%、農地が55%を占め、猟師グループが狩猟地(なわばり)を8年契約で借りてイノシシを周年捕獲している。3年間の平均被害発生率との関係では、狩猟活動が盛んなところほど被害が少なく、電気柵補助金の多いところほど被害が多かった。3年間の被害変化率との関係では、(狩猟活動ではなく)狩猟成功度が高いところほど被害が減少し、一定額までは電気柵にお金をかけたところほど被害はむしろ増えていた。
これらの結果から、狩猟だけが好ましい効果を示した。給餌はむしろ被害を増やす危険があり、電気柵も、狭い範囲を保護できても被害地が移るだけで、地域全体では効果が低い。電気柵には購入と維持に多額の費用がかかるので、補助金の使途について再検討すべきであろう。
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◆オオカミが絶滅したせいでポプラ林が更新しない??(2005.08.26)
米国のイエローストーン国立公園では落葉広葉樹が減少しているが、その原因として草食獣(有蹄類、特にelk, Cervus elaphus:アメリカアカシカ、以下エルクとする)がどれほど重要かについては論争の的となっている。ポプラ類は河畔林の重要構成樹種だが、有蹄類に好んで食べられる。同国立公園内の5ヵ所でポプラの更新と気候、河川流量などの歴史を比較した。
地形的にエルクの近付きにくい2ヵ所では、ポプラは過去50年間順調に更新しているのに対して、別の2ヵ所ではオオカミが絶滅した1920年代以降、更新が止まっている。残る1ヵ所では、かつてバイソンの放牧とエルクの駆除が集中的に行われていた頃にはポプラの更新があったが、それが縮小された1960年代後半以降は更新が止まっている。
【植生と草食獣の関係については、Ecology誌などにけっこう論文が出ているが、なかなかいいものに当たらない。そもそも、「草食獣が植生に影響を及ぼしているから草食獣を制御すべし」という、よくある議論に私はどうも引っかかる。人が勝手に「望ましい植生」を思い描いている面があるような気がするのだ。】
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