◆オオカミのムース狩り成功率には繁殖オスの年齢が重要[山田亜希美](2007.04.06)
オオカミ(Canis lupus)のような森林性肉食獣の捕食行動を観察するのは難しいため、捕食率(時間あたりの獲物量)に比べて狩りの成功率についてはあまり調べられてこなかった。スカンジナビア半島の南部中央にはオオカミが分布しており、捕食対象としてムース(ヘラジカ,Alces alces)がもっとも重要である。本研究では、オオカミの狩りの成功における、繁殖個体の年齢、群れサイズ、積雪深、ムースの密度の影響を調査した。
1998年12月から2002年2月にかけて、5つのなわばりの10頭のオオカミを捕獲し7頭にVHS発信器首輪、3頭にGPS首輪を取り付けて地上と航空機から追跡した。また、1998~2003年の冬季に、首輪個体のいない群れも含む17のなわばりで、雪上の足跡を徒歩やスキー、時にはスノーモービルで追跡した。マーキング行動から性別、群れの社会的地位などを判断した。オオカミとムース双方が同時に大またの足跡を示した場合にムースへの攻撃があったと判断し、ムースの死体や血痕があった場合は成功とし、それらがない場合は失敗とした。
年齢、群れサイズ、積雪深、ムースの密度の中で、オスの年齢だけが狩りの成功に有意な正の関連を示した。オオカミのオスはメスよりも25-30%重いことから、大型動物の狩りに有利に働いたと考えられる。実際、狩りの成功率はオスの体サイズが最大になる1.5~2.5才以降に増えていた。年齢が高いほど、体も大きく経験も豊かになるため成功率が上がるのだろう。また、伴侶を失ったメスが構成する群れでは捕食対象がノロジカなどの小さい動物に変わるのに対し、伴侶を失ったオスが構成する群れでは引き続きムースを襲っていた。アフリカのライオンやリカオンと違ってグループサイズは狩りの成功率に影響していなかったのは、この地域のオオカミでは親夫婦とその子供という家族で群れが構成され、子供は1~2才で群れから分散していってしまうためと考えられる。実質的に狩りをおこなうのは親であることからも大人のオスがムースを狩る時に重要であることがわかる。経験の浅い若いオオカミは襲いやすいムースを選ぶ能力がないため、狩りの成功率が低いのかもしれない。しかし、本研究の調査方法ではオオカミから逃げたムースの情報は得られないため、こうした点については今後の課題である。
【藤岡コメント:著者らはグループサイズが成功率に影響しないのは子供が早く分散してしまうから、としているが、論理が逆。この個体群では(理由は不明だが)グループサイズが大きいことの利益がないので、子が早く分散する方が親にとっても子にとっても有利ということだろう。その理由こそ知りたいものだ。】
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◆潮間帯で採食するコオバシギは餌分布は知っているが移動にコストがかかっている(2007.01.19)
理想自由分布モデルでは、動物は各パッチの質について全知であり(「理想的」)、移動には時間もエネルギーも要しない(「自由」)と仮定している。潮間帯で採食するシギ・チドリ類は、刻々と変わる最適な場所を見つけて移動しなければならず、また、嵐などに備えて栄養を蓄積する必要もある。そこで、越冬初期のコオバシギの観察結果を、理想的かどうかと自由かどうかを組み合わせた4通りの空間明示型確率モデルの予測と比較した。
1996-2000年の毎年7-8月にオランダのワデン海で250m間隔、1880箇所で泥を採取し、コオバシギのくちばしが届く深さで分けてから餌動物を取り出し、可食部のエネルギー量を測り、コオバシギの行動様式を組み込んで、年ごと、場所ごとにエネルギー獲得率を予測した。モデルではサンプル地点は2km四方の55ブロックにグループ化した。時間スケールは50分ごととし、1ステップごとに各個体は採食するか休むか、どのブロックへ移動するかを選ぶこととし、計120ステップ(約2ヵ月)での生存確率を評価した。4通りのモデルと2箇所のねぐら、年ごとに1,000回のモンテカルロシミュレーションを繰り返した。実際のシギの分布は、ねぐらで捕獲して発信機を付けた計121羽の位置データと、干潮時の直接観察によった。
発信機個体の場所利用パターンは、4つのシナリオのうち、餌場については全知だが移動にはコストがかかるというシナリオの予測にもっともよく一致した。適合性テストの結果、捕食率は予測値と観測値の差にほとんど影響しなかった。潮の干満と採食個体の比率との関係、および期間の最後における脂肪蓄積量についても同様に「全知・移動コスト」モデルにもっとも一致し、捕食率はほとんど影響しなかった。
もっともよく一致したモデルが移動にコストがかかることを仮定していたことは驚くにはあたらないが、全知については、最大800km2というシギの行動範囲の広さを考えると、意外かもしれない。シギは、他個体と情報を共有したり、他個体の存在からよい餌場を知るのであろう。また、餌である軟体動物が移動しないことも「全知」を可能にする要因と考えられる。このモデルでは、密度依存的なコストが考慮されていないことや、ねぐらが2箇所に固定されていること(実際には毎日13%がねぐらを変える)といった制約があるが、我々のアプローチは餌資源が変動する大きな範囲での採食行動を扱う他の研究にも有益であろう。
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◆シカは近付いてくる人の行動によって逃避距離を変える(2006.07.18)
捕食者が接近してきた時に警戒したり逃避したりしなければ命を失うが、一方で警戒や逃避は採食や交尾などの機会を逃すため、逃避距離や警戒時間は最適モデルの検証に適した材料である。そこで捕食者として人がColumbian black-tailed deer(Odocoileus hemionus columbianus=コロンビアオグロジカ)に接近する実験を行った。
調査地は1971年以来狩猟が禁止されているカリフォルニア州の公園で、実験はすべて木のない開けた場所で行った。いくつかの行動パターンを取りながら人が接近し、シカが警戒し始めた距離と逃げ出した距離を測った。その結果、遠くからアプローチを始めるほど警戒距離も逃避距離も遠かった。相手を凝視するかしないかは影響しなかったが、走って近付く方が歩いて近付くより、また、まっすぐ近付く方が少し(30m)それた方へ近付くより逃避距離が長かった。銃(のモデル)を持っているかどうかは、雌には影響しなかったが、雄には影響した。ただし、その影響は、一般的に報告されているのとは逆に、銃を持っている方が逃避距離が短いというものであった。
接近開始距離や捕食者(人)の行動と警戒距離、逃避距離の関係はおおむね従来からの研究と一致している。雄が銃を持つ人に接近を許したのは、実験が交尾期だったため雄は銃を持つ人をライバル視したか、長年狩猟圧がなかったために雄は単に好奇心を持っただけかもしれないが、はっきりした理由は分からない。
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◆先が読めないときほど友が頼りになる:ホシムクドリが採食行動マネするとき
グループで採餌する動物は他個体を観察することによって採餌効率を高めることが知られている。では、どんな環境条件で他個体の情報を使うことが有利になるのであろうか。我々はホシムクドリを用いて、予測のしやすさと他個体の信頼性を変えた4つの条件下で採餌効率を比較した。
野生のホシムクドリを捕獲し、2羽をテスト役、20羽を4組に分けて観察対象とした。実験時には、2つ並べたかごに観察対象とテスト役を1羽ずつ入れ、それぞれにくぼみが紙におおわれた木片を3つ用意し、うち1つにだけ餌(ミールワーム)を入れた。テスト役が3つのカバーをすべて開けた直後に対象個体に木片を与え、1つを開けた時点で1回の実験とし、2分ごとに1日10回の実験を3日続けた。予測しやすさは餌のあるくぼみのカバー色が一定かランダムかで変え、他個体の信頼性はテスト役のカバー色をすべて白とするか対象個体と同じ3色とするかで変えた。
観察対象が餌を得た率は、予測しやすい条件では予測しにくい条件よりも高く、しかも日々向上した。他個体の信頼性は影響しなかった。一方、予測しにくい条件では、2日目と3日目には他個体の信頼性が高い場合の方が低い場合より採餌効率が高かった。つまり、他個体からの情報は予測しにくい環境条件でより有益なことが証明された。ただし、予測しにくい条件下でも、他個体の信頼性による採餌効率の差は小さく、1日目には個体差も大きかったことから、自分の経験よりも他個体からの情報を利用するには相当な学習が必要なことも示唆している。
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◆ハンターは銃の音でワタリガラスに食事を知らせる
ワタリガラス(common raven, Corvus corax)は、食料を得るためにオオカミや人のハンターについていくことが知られている。しかし、ハンターは銃を使い、野生動物は銃音を避けるのがふつうである。では、つい30年ほど前まで北米各地で狩猟されていたワタリガラスは、ハンターの銃音に対してどのように反応するのだろうか。
狩猟期間である11月にワイオミング州の猟区内の12ヵ所で、音をさせた前後10分間に半径100m以内にいたカラス個体数を数えた。音源として、ライフル銃、ホーン(警笛)、笛、さらに無音を使った。各実験は場所ごとにランダムな順で違う日に実施した。その結果、音の後に個体数が増えたのはライフル銃の音だけだった。個体数が増えた7ヵ所はすべて森林内(計9ヵ所)で、開けた場所3ヵ所ではカラスは誘引されなかった。
カラスは、他の音と区別して銃音に引かれているという初めての証拠が得られた。開けた環境でカラスが銃音に反応しなかった理由としては、そうした環境ではカラスは観察者(ハンター)や獲物を視覚によって察知できる、といったことが考えられる。
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◆遠くから鳥に接近し始めるほど、鳥は遠くから逃げだす(2005.01.28)
ある動物が接近する危険から逃げ始める「逃避距離」は、行動生態学的には最適行動の例として、また、野生動物管理分野では、緩衝帯の幅を設定する根拠として研究されてきた。逃避距離は、逃げないで捕食されるコストと逃げるコストのバランスで決まると考えられる。捕食者(脅威)が遠くから近付いてくる場合、それを長くモニタリングするコストがかかるし、現在の活動の効率も低下するだろう。とすれば、遠くから近付き始めた方が、逃避距離は長くなるはずである。
オーストラリアの各地で、採食などのリラックスした行動をしている鳥に一定の速度で近付いて逃避距離を求めた。全部で68種について、場所を変えては26回~288回実験を繰り返した。その結果、68種中64種で、開始距離と逃避距離に正の相関があった。つまり、行動生態学的な最適モデルの予測に一致した。
逃避距離は、さまざまな要因によって変わるので、緩衝帯を決めるために種ごとに単一の値を求めようとするのは好ましくない。また、逃避距離の研究においては、開始距離を無視せずに共分散として扱うべきである。
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