◆だましもやがては正直な信号へ(2007.02.27)

信号の送り手は受け手を都合良く操作しようとするが、信頼性のない信号では期待する反応を引き起こせなくなるので、両者の複雑な共進化を導くことになる。たとえば、餌を模した刺激を用いて雄が雌をおびき寄せるような「だまし」から始まり、こうした刺激を本物と区別する雌と、さらに手の込んだ刺激を持つようになる雄の間で共進化が生じることもありえるだろう。

メキシコ中部にすむカダヤシ目ゴーデア亜科では、多くの種で雄の尾ひれに黄色い帯模様が現れ、それは彼らの餌である黄色い虫に似ている。GarciaとRamirez(2005)が系統関係のわかっている6種を使って実験したところ、雄に帯模様が現れない種も含めて雌は鮮明な帯模様の雄に惹かれることや、帯模様は雌雄ともに摂食反応を誘因するが、その強さは帯模様が発達していない祖先種ほど強いことがわかった。黄色い帯模様は、雄が摂食刺激を利用して雌を引き寄せようとする感覚トラップ(sensory trap)として生じたと考えられる。一方、鮮明な帯模様をもつ種では、雌はもはやだまされているのではなく、帯模様を雄の魅力の指標としている。帯模様が正直な信号であるためには高いコストがかかっていることと、より鮮明な帯模様の雄を選んだ雌の繁殖成功率が向上することが必要だが、それはGarciaとRamirezの実験では十分に証明されていない。しかし、彼らの一連の実験は、信号の起源と現在の維持機構は違うことがあるということを示している。

「だまし」信号に対して信号の受け手がどのような進化的反応を示すかは、だまされることのコストによる。だましの信号は、交尾相手を探すコストを減らすので、差し引きのコストがほとんどないと考える研究者もいるが、多くの場合でだまされることには大きなコストがかかるようである。後者の場合、受け手によるだましへの抵抗が進化するが、必ずしも正直な信号の進化にはつながらず、雌はまったく別の形質に依存するようになることもあるだろう。

【特に新しい考えは提示されていない。この論文はNature 434:501-505に掲載された別論文の紹介を軸にしている。Nature論文は、感覚便乗説を支持する例として生態学の教科書にも載っているBasoloによるソードテールについての仕事を少し発展させた程度のものだ。私は、信号の進化は商品広告と同じで「わかりやすさ」が鍵だと考えている。相手(商品)を評価するには手間暇がかかるということが出発点だ。もちろん、そこそこの信頼性は必要だが、だましの危険も絶えないだろう。】

元の文献

Stuart-Fox, D (2005) Deception and the origin of honest signals. Trends Ecol. Evol. 20:521-523 [#20822]

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◆コガラでは警戒声を聞くと成鳥より幼鳥の方が遠くへ逃げる(2006.04.30)

警戒声(アラームコール)が発せられた後にやぶへ逃げ込んだりフリーズしたりすることが多くの鳥で知られている。この研究では、冬期間に雌雄の成鳥・幼鳥が群れを作るコガラにおいて、警戒声に対する反応に年齢による違いがあるかどうかを検証した。

フィンランド南部の針葉樹林で2冬にわたってプレイバック実験を行った。105羽のコガラをあらかじめ捕獲して足環で識別した。18個体から録音した警戒声を28群の1~3個体、合計55個体(成鳥25、幼鳥30)に5~10mの距離から聞かせた。観察対象の個体が枝の中ほどで休んでいるときに、別の群れの声を聞かせるようにした。その結果、幼鳥よりも成鳥の方がフリーズした率が高く(約50%)、フリーズした個体を除いても、成鳥よりも幼鳥の方がより遠くまで移動した(約1m対2m)。幼鳥も成鳥も、移動した場合には大部分がより危険の少ない幹側へ移動した。

幼鳥と成鳥で反応が違った理由には2つの可能性がある。まず、幼鳥は経験不足から適当な反応ができずにやたらと動いてしまったのかもしれない。もう一つの可能性は、幼鳥の方がふだんから危険の高い位置、つまり樹木の外寄りで採食していることが多いため、内側へ逃げようとしたのかもしれない。

【著者も書いているように、なぜ幼鳥と成鳥で違ったのかは今回の研究だけでは分からない。哺乳類でも同様の研究事例が知られているそうだ。私たちがオナガで実験したところでは、「誰の声」かも反応に影響している可能性がある(未発表)。警戒声の研究はまだまだおもしろそう。】

元の文献

Rajala, M;Ratti, O;Suhonen, J (2003) Age differences in the response of willow tits(Parus montanus) to conspecific alarm calls. Ethology 109:501-509. [#20309]

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◆警戒声は捕食者をあきらめさせる声か身内への緊急警報か?(2005.06.21)

捕食者を見つけたときに、自らを危険にさらすかもしれない警戒声(アラームコール)を発することが多くの動物で知られている。警戒声は、捕食者に対して追跡をあきらめさせて自分の生存率を上げるのか、それとも血縁者に警告を発することによって適応度を上げるのか、どちらが重要なのだろうか。209種の齧歯類について、昼行性か夜行性か、警戒声の有無、社会性の有無を文献から調べて、系統関係を考慮して分析した。

夜行性のものよりも昼行性の齧歯類の方が、また、単独やペアで暮らすものよりも社会性を示す齧歯類の方が警戒声を発する種の割合が高かった。昼行性と社会性にも関係があった。これらの中で、警戒声と昼行性の関係においてもっとも相関係数が大きかった。系統樹による解析でも、昼行性を獲得した系統で有意に多くの種が警戒声を発することが分かった。

この結果は、齧歯類においては昼行性の進化が警戒声の進化に先立って起こったという仮説を支持している。昼行性動物は視覚によって捕食者を正確に定位できることから、警戒声は捕食者に追跡をあきらめさせるために進化したのだろう。

【系統関係を考慮しているとはいえ、結論にはちょっと無理がある。大部分が昼行性である鳥類において、警戒声を出すものと出さないものがいることが説明できない。警戒声を聞くと捕食者があきらめる率が高まるかどうかの検証も必要だろう。著者らは、血縁者への警告という機能も二次的な進化要因として認めているが、警戒声を出すか出さないかはけっこう奥が深いものだと私自身は感じている。】

元の文献

Shelley, EL;Blumstein, DT (2005) The evolution of vocal alarm communication in rodents. Behav. Ecol. 16:169-177. [#19972]

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◆飾りは、きれいにしておくのが大変だからこそ正直な信号(2005.06.21)

クジャクの飾り羽のような手の込んだ飾りは、これまでは、作り出すコストや捕食を受けやすくなるコストのために個体の質を現す正直な信号として機能していると考えられてきた。我々は、こうした飾りの別のコストとして飾りを良い状態で維持するのに必要な時間を評価した。

まず、12種の鳥について野生下と飼育下で羽づくろいなどの維持活動に費やす時間を、飼育下の観察データや文献データを使って比較したところ、飼育下の鳥は野生下の約倍の時間を維持活動に割いていたものの、両者には高い相関があった。つまり、種間の違いは飼育下でも変わらないことが確かめられた。次に、手の込んだ飾りを持つ9種と、それぞれに近縁で、飾りを持たない9種について、飼育下で原則として6時間観察し、維持行動の割合を求めた。その結果、飾りを持つ種は持たない種に比べて有意に多くの時間を維持活動に充てていた。

維持活動の割合は、体のサイズや雌雄のサイズ差とは関係がなかったので、飾りの有無がもっとも大きな影響を与えていることが分かった。つまり、飾りには維持コストがかかることも正直な信号としての機能を強化していると考えられる。

【おもしろいし、今まで指摘されてこなかったのが不思議な発想だと思う。実は、もう20年以上前に私も同じことに気づいた。シラサギの繁殖行動を観察していると、あのレースのような飾り羽は、生産コストはたいしたことなくても、きれいにしておくのは大変だというのがすぐに分かった。その後放っておいたのでは意味がないが。】

元の文献

Walther, BA;Clayton, DH (2005) Elaborate ornaments are costly to maintain: evidence for high maintenance handicaps. Behav. Ecol. 16:89-95. [#19969]

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◆マーモットは信頼性の低い警戒声により反応する??(2005.02.25)

周辺に危険を知らせる警戒声(アラームコール)が個体ごとに識別されていることがいくつかの種で知られている。こうした識別は、信号の受け手が警戒声の信頼性や発信者の性別・年齢を評価することが利益にかなう状況で進化してきたと考えられる。北米西部に広く見られるマーモット(Yellow-bellied marmot, Marmota flaviventris)は、大声の警戒声を2種類出す。【こちらのHPで声が聞ける】もっともよく聞かれるwhistleは、危険の度合いに応じてピッチや回数が変わるだけでなく、個体も区別されていることが分かっている。このwhistleの信頼性や発信者の数によって聞き手の反応が変わるかを野外実験で調べた。

実験1では、野外個体に対して(a)ある個体の警戒声を捕食者であるアナグマの剥製と同時に、(b)別の個体の警戒声をタープをかけたアナグマ剥製と同時に示す学習期間を設けて、学習の前後でそれぞれの個体の声に対する反応を比較した。すると、学習期間後のマーモットは、(a)と(b)の声に違った反応を示したが、予測とは違って、より信頼性の高い(a)の声を聞いたあとでより長く採食した。実験2では、信号劣化の影響を見るため、(a)スピーカーから10m離れた位置で警戒声を再録音した声と(b)元の声を音量を揃えてプレイバックした。その結果、またしても予測とは反対に、マーモットは劣化した警戒声に対してより強く反応した。実験3では(a)1つのスピーカーから1個体の警戒声、(b)2つのスピーカーから1個体の警戒声、(c)2つのスピーカーから2個体の警戒声の3つの設定でプレイバックした。マーモットは、(c)の警戒声の場合にもっとも強く反応し、警戒行動や穴で過ごす時間を増やした。

実験1と2で予測と反対の反応だったのは、信頼性の高い信号の場合には自分で周辺を確かめる行動が減ったためと考えられる。実験全体から、マーモットにおいて警戒声の個体を識別するうえで、信号の信頼性が重要であることを証明した。

【大変手間のかかる実験をよくやっていると思うが、いずれの結果でも差はあっても小さいし解釈には疑問もある。実験1の学習期間では毎秒1回の警戒声を10分間も聞かせているので、アナグマの剥製に慣れてしまって意図通りに学習されなかったかもしれない。さらに、マーモットはグループメンバーとよそ者の声を区別している可能性があり、よそ者の声を使った実験では結果が複雑になるかもしれない。ちなみに、かつてオナガの警戒声を研究していた印象では、オナガは「信頼できるヤツ」をちゃんと区別していると思う。いつかまた研究してみたいものだ。】

元の文献

Blumstein, DT;Verneyre, L;Daniel, JC (2004) Reliability and the adaptive utility of discrimination among alarm callers. Proc. R. Soc. Lond. B 271:1851-1857. [#19867]

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◆雄の若鳥が雌に似ているのは冬の生存率を高めるため(2005.02.24)

若鳥の羽色が成鳥とは異なるdelayed plumage maturation(DPM、遅れの羽衣成熟)という現象は、特にスズメ目の鳥で広く見られる。生理的には繁殖可能な雄の若鳥が雌に似ている、というのが典型的である。その適応的な意義については、質が劣ることをアピールして他個体からの攻撃を減らすとか、雌のふりをしてつがい外交尾をねらうとか、捕食のリスクを避けている、といった説があるが、いずれも繁殖期を想定している。この研究では、DPMが冬の生存率を高める可能性について、ニュージーランドコマヒタキ(New Zealand robin)の亜種North Island robin(Petroica australis longipes)で実験的に検証した。♂は濃いチョコレート色、雌は灰褐色で、雄の幼鳥は最初の繁殖期までは雌によく似ている【こちらのHP参照】。

ニュージーランドのTiritiri Matangi島は、North Islandの半島から3.5km離れた220haの島で、1992年にこのヒタキが再導入され、1992/93年の7ペアから調査年である2000/01年と2001/02年にはそれぞれ27ペア、22ペアに増えている。ペアはどちらかが死ぬまで続き、周年なわばりを守る。好適な生息地は繁殖ペアに占められており、なわばりを確保できなかった若鳥は翌年の繁殖期までに死亡する。外部との移出入はない。ここで82羽の幼鳥(42♂、40♀)を捕獲し、その半分には顔料入り塗料で雄成鳥のように塗り、残りには顔料のない塗料を塗って、その後の生存率や行動を追った。捕獲-再捕獲モデルによる推定生存率は、1年目は染めた個体で0.10、対照個体で0.61、2年目はそれぞれ0.29と0.40と、染めた個体で有意に低かった。処理・放鳥直後に親鳥から給餌を受けた個体の割合は染めた個体の方が対照個体よりも低かった(30% vs 61%)。親のなわばりに留まった期間には違いがなかったが、その後に不適当な生息地(繁殖記録のない場所)に定着した個体の割合は、染めた個体で対照個体より高かった(50% vs 21%)。しかし、どちらの若鳥も他個体から同様に攻撃された。

このヒタキのように冬にもなわばり生活する鳥では、雄型の羽色を持つと冬の生存率が低下することが証明された。その仕組みははっきりしないが、いいなわばりの確保する上で有利と考えられる。攻撃を受けるという面では同じだったが、断片的な攻撃行動の観察は必ずしもいい指標ではないかもしれない。

【雄の羽色が雌に似る、というと性選択が関わっていると考えて繁殖期にどのような意味があるのかを調べようとするのが普通だろう。冬の生存率に着目し、またそれを調べられる個体群を活かしたいい仕事だと思う。ただ、著者らも指摘しているように、このヒタキの性的二型はそもそも小さく、その適応的な意義もよく分からないところもある。】

元の文献

Berggren, A;Armstrong, DP;Lewis, RM (2004) Delayed plumage maturation increases overwinter survival in North Island robins. Proc. R. Soc. Lond. B 271:2123-2130. [#19865]

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◆ディストレスコールは捕食者に対して正直な信号!?(2005.02.22)

捕食者による追跡を抑止しようとする信号がさまざまな分類群で知られている。我々は、捕食者や人の接近により地上から飛び立つときに騒がしい声を出すコヒバリ(lesser short-toed lark, Calandrella rufescens)において、声の構造や体調(体重-翼長比)、T細胞免疫活性の関係を調べた。

2003年秋の午後にカナリア諸島で♂25羽と♀16羽を捕獲し、夜間を通して免疫活性を測定し、翌朝放鳥する際にその声を録音した。録音から発声数など7項目を測定し、主成分分析によって3成分に集約した。重回帰分析の結果、免疫活性と体調が声の耳障りな感じ(call harshness)ないしはそれと強く相関する主成分PC3と有意に相関した。つまり、免疫活性が高く、体調の良い個体ほど耳障りな声を出した。

耳障りな声を出すにはエネルギーが必要なので、健康的な個体だけが出せるのだろう。潜在的な捕食者は、耳障りな声を出す個体は捕まえにくいため避けるかもしれない。これは、自然選択によって形成された声が個体の質と関係していることを証明した最初の研究である。

【結果はともかく、解釈は幼稚。ディストレスコール(遭難声)は、捕まったときに発する声なので、その時点で自分の逃避能力を捕食者にアピールすることに何の意味があるのか疑問だし、そもそも、著者らが扱っている声はディストレスコールではなく、近距離用のアラームコール(警戒声)ではないかと思われる(ムクドリなどでよく聞かれる)。また、被食者の声に個体差や体調による違いがあっても、その情報を捕食者が利用しているとは限らない。】

元の文献

Laiolo, P;Tella, JL;Carrete, M;Serrano, D;Lopez, G (2004) Distress calls may honestly signal bird quality to predators. Proc. R. Soc. Lond. B(Suppl.) 271:S513-S515. [#19860]

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◆サイチョウはサルの警戒声を区別できる(2005.02.21)

さまざまな動物が捕食者の種類に応じて違う警戒声(alarm call)を出す。霊長類を初めとする一部の哺乳類では、他種の警戒声を区別することが知られているが、鳥類では同様の研究例はない。西アフリカに生息するキンコブサイチョウ(yellow-casqued hornbill, Ceratogymna elata)は、大型でもっぱら樹冠部で暮らすため、大きさや生活域の近いディアナザル(Diana monkey, Cercopithecus diana)の警戒声を聞く機会が多い。ディアナザルは、ワシとヒョウに対して異なる警戒声を発する。サイチョウにとっては、ワシは潜在的な捕食者だが、ヒョウは危険がない。

コートジボアールの2地域でサイチョウに対して4種類の音声(ワシの声、ヒョウの声、サルのワシに対する警戒声、サルのヒョウに対する警戒声)を聞かせて前後の行動を記録するプレイバック実験を計34回実施した。その結果、サイチョウはワシの声とサルのワシに対する警戒声にだけ反応して、鳴き声をあげたり音源に接近したりした。このことから、サイチョウはサルの警戒声を区別して適当に(appropriately)反応していることが分かった。

【著者らも書いているように、サンプル数は少ないものの、結果は明瞭。イントロや議論もバランスがよい。他種の警戒声を学習する、というのは鳥獣類ではかなり普通なのかな、という気がする。】

元の文献

Rainey, HJ;Zuberbuhler, K;Slater, PJB (2004) Hornbills can distinguish between primate alarm calls. Proc. R. Soc. Lond. B 271:755-759. [#19620]